アリス夢

□鳥かごに入れるのは
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「えらく懐かれてるじゃないか」



あまり機嫌がよくなさそうにそう言ったグレイを横目で見て、私は自分の手元に視線を落とした。


暗殺業から足を洗ったとはいえ、武器の手入れを怠るとなんだか気持ち悪い。

布でナイフを磨きながらグレイに答える。



「懐かれたな。彼女を助けた私がよほどかっこよかったらしい。芋虫に見習わせたいと言っていた」



普通の少女・アリス。


彼女がグレイと一緒にいることに、最初苛烈なほどに嫉妬した。
けれど今は、かわいらしい妹分だと思える。

いや、不憫な妹分、か。
あの芋虫に心惹かれるなんて、可哀想としか言いようがない。


自分の頭の中だけでそう考えていると視界が暗くなった。


なんだ、と顔をあげると無表情なグレイが胸元をくつろげて私を見下ろしていた。
冷たいまでに整ったその顔には表情がなく、でもその瞳に暗い炎を見つけて背筋がぞくりとした。


長い指先が確かめるように私の輪郭をなぞって、そして長い息を吐き出した。



「…どうした」



人肌恋しくなったのか?
そう思いながら声をかけると、グレイはソファに座る私の上にかがみこんで逃げ場を塞ぐと唇を重ね合わせた。



「んぅっ」



「ん」



ねっとりと食らいつくすような口づけに背筋を震わせていると、グレイが私の首の後ろを抱きこんで吐息さえ触れそうな近さで私を睨みつけた。



「・・・・・・俺以外見るなって、言っただろう。約束を守れないなら、お仕置きだぞ?」



赤く濡れた唇が動いて、低い声が耳に届いて、その内容を理解して初めて私は顔が火照るのを感じた。





―――嫉妬したのか。





まさか同じ相手に嫉妬するとは思わず、笑いそうになって私は慌てて表情を引き締めた。

ここで笑えばきっとお仕置き決定だ。
足腰立たなくなるまで抱き殺される。



―――それも、嫌じゃないけど。





「っ」


くん、とグレイの短い髪を引っ張って私は間近にある唇にちろりと舌を這わした。




「・・・・・・見えていないさ。お前だけだ」




その距離でふわりと微笑むと、グレイの顔が一気に上気した。




(鳥かごは君しか開けられない)


2012/12/25
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