アリス夢

□態度だけでは伝わらなくて
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「・・・・・・名無しさんは、贈り物をされることが嫌なのか?」


「? そんなことはないと思うけど」



アリスにきょとんとした顔でそう返されて、ブラッドは「そうか」とため息を漏らした。




――――喜んでくれていないわけではないと思う。


けれども、喜んではいけないと自制しているようで、いつもあいまいな笑みでお礼を言われる。

ただ、喜んでほしいだけなのに。



「・・・・・・女性は難しいな」


「はぁ? 何気持ち悪いことを言ってるのよ」


「・・・・・・気持ち悪いとはずいぶんな言い草じゃないか、アリス」


「ブラッドって器用貧乏よねー、そんなんだから名無しさんに逃げられるのよ」



「何? 今のはどういう意味だ、お嬢さん」


むっとしてアリスに詰め寄ると、アリスは呆れた顔をして庭園の一角を指さした。



「いつまでも私をダシに使って、うかうか取られても知らないから」




















――――あ。



庭園の向こうに見えたアリスとブラッドの姿に、私は慌てて視線を逸らした。



「なぁ、あんた最近元気なくないか?」


「エリオット」



心配そうに耳を垂れさせたエリオットに、私は笑みを漏らした。


「大丈夫よ、ありがと」


「大丈夫って顔してないけど……」


一口大の人参ケーキをフォークにさしたまま表情を曇らせたエリオットが、ぱっと表情を明るくした。



「これやるよ!」


「え?」


ぐいっとフォークを差し出されて、私は首を傾げた。

するとエリオットがぴこぴこと耳を動かしながら、上気した顔で笑う。



「これ食べたら絶対元気でるぜ! 俺が保証するよ!」



「エリオット・・・・・・」


自分が好きなものを、私の元気がないからと勧めてくれるエリオットに、自然と笑みが漏れた。
一口大、の大きさがエリオットサイズだって分かってるけど、エリオットの気持ちが嬉しくて、私は机に身を乗り出した。


「ありがとう。もらうわ」



そのフォークをもらおうとしたら、それを避けて口元にぐいっと差し出される。


「ん!」


――――あーん?


そこから食べるだろうと信じて疑わないエリオットの表情に、少し戸惑ったけど、にこにこと微笑みかけられて腹をくくった。




「あー・・・・・・」


「ん!」


私には大きいケーキが、口の中いっぱいに入ってきて、んくんくと必死に咀嚼する。



「端っこ、ケーキついてるぞ」



「ん?」



こくん、と飲み込んだ瞬間。






―――口の端をぺろりと生温かいものがかすめていった。




「……っ」


それに驚くと同時か否か、ぐいっとお腹に腕を回されて視界が反転して。



「あれ、ブラッド?」



「……エリオット、彼女はお前にはやらん」




「・・・・・・な、なんか怒ってるか?」



びくびくと怯えるエリオットに何も言わず、ブラッドはさっと踵を返した。
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