アリス夢
□嫉妬させたくて
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「ブラッド―、ブラッド起きてー」
―――しーん。
返答なし。
物音もなし。
ドアの向こうに生活反応なし。
もしかしていない?
「あ、開けますよー?」
どきどきしながら一応断って、私はそっとドアを開くとそこから顔を突き入れた。
薄暗い部屋の中、遮光カーテンからわずかに日の光が部屋の中に差し込んでいる。
ベッドはさらに奥だよなあ、と思いながら私は恐る恐る中へと入った。
「ブラッド起きてー?」
小さく声をかけつつ前進。
ふと卓の上に積み上げられた綺麗な箱の数々に胸がちりついた。
「……おモテになることで」
名も知らない女性達からの贈り物。
顔もいい、金もある、男気もある。
そんなブラッドは女性に不自由していない。たまに女性ものの香水の香りを身にまとって帰ってくる彼を知っている。
嫉妬する資格なんてない。してもどうしようもない。
わかっていても私はもやもやすることを抑えられない。
ハートの女王といるところを見てもちりちりする。
全くタイプの違うアリスといるところを見てもちりちりする。
……そんな風に思うのは私だけで、彼は私に対してそんな感情は一切持ち合わせていないというのに。
「……」
なんとなく重くなった思考にふるりと頭を振る。
改めて部屋の主を探すべくぐるりと部屋を見回して、奥のドアへと近づいた。
「……」
そうっと押し開くとやっぱり寝室だ。
ベッドの上がこんもりと丸くなっているのを見て覗き込むと、気持ちよさそうに寝息を立てる無防備なブラッドがいた。
「う、わ……」
かわいい。
男性にそんな表現は間違っているのかもしれないけど、いつもの気だるげな人を食った雰囲気とも違う、ただただ眠るだけの素直な表情。
こんな顔も出来るんだ、と思いつつ私はその肩を揺り動かした。
「ブラッド、ブラッド起きて。エリオットが待ってる」
「う、ん……」
小さく身じろぎしたけど起きる気配はない。
もう、と思いながら布団をはがそうとして、ぎょっとした。
な、なんで何も着てないの!?
いやかろうじて下だけははいてたかもしれないけど!
じわじわと熱を持つ頬を自覚しつつ固まっていると、掠れた声が聞こえた。
「……なんだ。足りないのか……?」
「!」
薄目を開けたブラッドから色気が匂い立つ。
それに対して顔を真っ赤にしていると、突然腕を掴まれぐいっと引かれた。
「!?」
「足りないなら…もっと満たしてやるさ」
うっそりと微笑む口元が見えた、と思った瞬間。
「っ! ん…!?」
しっとりと隙間なく合わせられた唇。
それに驚く間もなくぬるりと舌が入り込んでくる。
食いつくされるのではないか、と不安になるほどに絡め吸われ蹂躙される。
「ん、ん・・・・・・! ふ、ぁ……っ」
やっと唇が離れたと思えばもう息も絶え絶えで。
生理的な涙のにじむ目で目の前の端正な顔を睨みつけると、私は力いっぱい両手でブラッドの頬を叩いた。
「っ! 何を……名無しさん?」
痛みに顔をしかめ、私を視界にとらえた瞬間に目を丸くしたブラッドに、私はぐっと歯を食いしばった。
――――誰と、間違ったんだろうか。
「……愛人と間違えて寝ぼけてキスするなんて、かっこ悪いわよ、ブラッド」
精一杯の強がりで。
泣きそうなのを必死でこらえて。
戸惑ったようにベッドに身を起こしたブラッドにそう言い捨てると私は部屋を後にした。