遙か夢伍

□遙かリク
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「おかえりなさいませ」






ずっと帰ってくるのを待っていた。




今日はどうしても報告したいことがあったから。





「ああ、ただいま帰った。どうした、やけに嬉しそうだが?」





するりと頬を撫でられて目を細めながら、私は自分のおなかにそっと手をあてた。




「ええ。嬉しいご報告が」



「うん?」




「赤子が宿りました」




きっと喜んでくれる。




そう信じて違わない気持ちだった。




















――――――けれど。











「なに…?」





「友雅様?」




は、と息を詰めた友雅様が私から視線を逸らした。
その視線を追おうにも、目が合わない。




ドキン…ドキン…。





心臓が、嫌な風に高鳴る。





この間は・・・・・・なに?







「出来てしまったか…そうか」





「っ」





――――出来て、しまった?





どうして、後悔するような・・・・・・。






自分の顔色が青ざめるのを感じた。





愛されていると思っていた。



けれど、そうではなかった?




数多いる妻の中の一人でしかなかった?





私だけだと思っていたのは私だった?





私は・・・・・・本妻ではなかった?






「ん・・・・・・今日は先に休む。君も、体を大事に」





ぽんぽん、と頭を叩くその仕種に胸が冷えた。







――――――こんな重大な報告をしたにも関わらず、一人褥に戻って行った友雅様…。






「ふ…」





何が、きっと喜んでもらえる、よ・・・・・・。






乾いた笑いが口をつき、すぐに涙へと変わった。





「……っ!」





畳を睨みつけ、拳を力なく振り落す。




「ふ……っ! ふ、く……っ!」





嗚咽を堪えども、胸の痛みはなくならず…。







欠け行く月がまるで欠けて行く寵愛のように、私をあざ笑うかのように煌々と光っていた。



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