遙か夢伍

□一つ一つかけらを集め
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「・・・・・・私、名前があんな風に思っているなんて知らなかった」




あの戦いの後、肩を落とす姫の肩を抱いて俺は呟いた。




「姫…あなたが肩を落とす必要はないんです」





――――すべて、俺が悪いのですから。














いつか三ノ姫に指摘されたように、俺の中での唯一絶対の優先順位は千尋だ。




だからあの日。





『ニノ姫! 姫ーーーーー!』




時折出てくる常世の兵を切り捨てて、小さな姫を探して回った。



広い橿原宮。


けれども彼女がいる場所など知れている。






泣き声が。





微かな泣き声が聞こえた。




『千尋……っ!』






『風早……っ!』





煤で汚れた顔。

でも眩しいほどの金糸が俺に彼女の居場所を教えてくれた。

首にぎゅっと抱き着いてくるニノ姫を腕に抱き上げて、何気なく部屋の中に視線を巡らせた。





『……っ!』







―――――三ノ姫・・・・・・!






梁の下敷きになった小さな姫。



名前姫。




俺のことを憧れまじりの目で見つめていた、かわいい姫。





救えるか?






微かな動きで地をかくその腕から、俺は・・・・・・目を逸らした。




慈悲の生き物とはよく言ったものだ。





俺は・・・・・・不確かに二人の姫を助けるよりも、確実に千尋を助けたいと思っている。







踵を返して部屋を出る。





後ろ髪をひかれたけれど、今は怖いのか目をつむったままのニノ姫を安全な地へ逃がすことが先決だ。






『……柊っ!』





姫を抱きかかえたまま走っていた俺の視界に、見知った男の姿が見えた。


突然宮から姿を消した男。



だが。




『風早…』




『三ノ姫が、名前姫がまだその部屋の中にいるんです! 頼む』



『・・・・・・あなたは早くニノ姫を安全な場所へ』



『助かります!』





言い置いて俺は彼女だけを連れ、途中で那岐を拾い、異世界へと旅立った―――――。
















「風早、でも…」



「いいえ。あなたが気に病む必要はない。あなたが平和な世界で暮らしていたのはあなたのせいじゃない。俺のせいです。俺が・・・・・・」





まさか、柊が彼女を見捨てるだなんて思わなかった。





そんなの、言い訳にもならないけど。







―――――地獄のような、五年だっただろう。




女の子なのに、あんな火傷の痕まで残して・・・・・・。





「・・・・・・アシュヴィンは、名前のことを大事にしてくれるかしら」




「・・・・・・ええ。同じ男だから分かります。彼は本気だった。だから、名前様はきっと幸せになりますよ」




それは俺の願いでもあったのだけれど。




黒龍に彼女を渡さなかった彼ならば、きっと。


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