遙か夢伍

□恋する瞳に
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繋いだ手が離れることはほぼなかった。




どちらからともなく手を繋ぎ、オレは時折その手の甲を親指で擦るようにして自分の存在を感じてもらうべくアピールする。




名前はそんなオレを優しく受け止めてくれている風だった。







「綺麗…」




吐きだす息は白い。



それが寒さを目に見えて表しているようで、繋いだ手は温かくとも反対の手は冷たいのだと示しているようで。




華やかに色づいたイルミネーションを見つめる名前の横顔にたまらなくなった。





イルミネーションよりもオレを見て。







――――――将臣よりもオレを見て。





「オレじゃ駄目なのかい?」




彼女を腕の中に抱きこんで尋ねる。



目は見ない。



見ない方が本音を話せるんじゃないかと思うから。






外気の寒さよりも触れ合った部分の温かさの方が気になった。





「将臣のどこがいいんだい?」





「ヒノエくん・・・・・・」





困ったような声で名前を呼ばれて腕の力が抜けかける。




―――オレの気持ちは「困る」ものなの・・・・・・?






「好きなんだよ・・・・・・なんでなんてわからない。でも好きだ。名前が将臣を見ていると遣る瀬無い。切なくなる。その目をオレに向けてくれたらいいのにって思う。でも……お前はあの二人を見てる・・・・・・」






切なくそう呟いて、俺は腕の力を完全に抜いた。



名前と目が合う。




儚げで優しい名前。




その目は・・・・・・憐みでなく、困惑でなく、ただ微笑んでいた。







「ヒノエくんの言うとおり。私は「二人を見てる」んだよ・・・・・・?」




「何…」





「最初、将臣くんを見てると胸が安らぐなと思ってたの。でも私の方が年上だし、なんとなく見るだけで幸せだった。四人でじゃれあって、遊んで。でもあるとき将臣くんの望美を見る目が変わったことに気づいた。望美の将臣くんを見る目にも」





「名前…」




「でもね、その時納得したの。ああ、この二人は引き合う運命だったんだろうって」




語る表情はいっそ安らかだ。




名前はそっとオレの両手を持ち上げて、包み込むように握った。



それだけで胸の奥まで温かになるようで、不思議に思う。







「あの子たちが幸せならそれでいいの」





それは、彼女に恋心がないと示す言葉。




じゃあ――――。





じゃあ・・・・・・?







「・・・・・・今日誘ってくれて嬉しかった。ちゃんとね、言おうと思ってたの。でもずいぶん不安にさせてたみたいでごめんね…」




甘やかな笑みがオレを見上げる。




それに一際大きく心臓が跳ねた。






「・・・・・・ヒノエくんよりも年上だけど、いいかな?」





それは了承を示す言葉だと、そう受け取ってもいいのかい・・・・・・?








震える指で頬をさすると、名前が甘えるようにすり寄ってきた。




その甘えた仕種はオレだから?




将臣にはそんな風にしないよね。





「・・・・・・オレは、お前を好きでいてもいいの・・・・・・?」





なんて情けない。



あちらではそこそこ浮名を流していたはずで、女性の扱いにも長けたはずで、それなのに今は初恋に戸惑う少年みたいに。





顔が真っ赤だという自覚もある。


泣きそうな顔をしている自覚もある。



震えが起こるほど、嬉しい――。





「――――ヒノエくんのことが、好きだよ」





「……っ」





やっと通じた想いはひどく甘く切なく嬉しかった。




(恋する瞳に)

2013/07/09
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