遙か夢伍
□譲れない
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私に擦り寄ろうとする蘭殿から離れ庭に出た私を天真が追いかけてきた。
「私に何の用だろうね」
「友雅、あんまあいつにちょっかい出すなよ」
憮然とした表情でそう天真に言われた私は片眉を跳ね上げた。
「君の妹御には手を出すつもりはないが」
「違う! 名前にだ」
「…なぜそんなことを君に言われなければならないんだろうね」
くす、と唇に笑みをはき馬鹿にしたように尋ねた私を天真はむっとした顔で睨みつけた。
「俺へのあてつけだろ、どうせ!」
本気で腹立たしそうに叫ばれた言葉に合点した。
―――――案外、天真も愚かではないか。
「確かに、最初は天真が好きなのだろうと思ってね、興味がわいた。だが私にとっては幼い少女だ、恋愛の対象になるわけもない、と思っていたのだがね・・・・・・」
知れば知るほどに興味が募った。
引力のように引き寄せられ、胸の内の情熱が・・・・・・再び呼び起されて。
「すまないが、私も本気だ。天真、君に渡すわけにはいかない」
「……っ」
怯んだ天真に背を向けて歩き出す。
哀しげな顔をして去って行ったあの少女を追いかけるために。
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