遙か四

□実は最初から
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「おう。元気にやってるか?」



「坂本さん」




まさか往来で後ろから抱き着かれ感動の再会を演出されるという(だが人違い)事態が起こった相手はかの坂本龍馬さんだった。





「龍馬って呼んでくれてもいいのによ」




「うーん…嬉しいお言葉なんですけど、やっぱり人目もありますし」




恋人でも旦那でもない異性の名前を気安く呼ぶなんて女性にはあまり褒められた行為ではないから、と遠まわしに断ると彼は少し不服そうに頬を膨らませ、でもすぐに立ち直ったかのように笑みを浮かべた。




「ま、仕方ないか。じゃあ蕎麦くれ! 腹減って死にそうなんだ」




「かしこまりました」

















一人で食べても美味しくないから忙しくないなら隣で座っててくれ、なんて言われて店の中に他にお客さんがいなかったら大人しくそこに座るしかなくて。





「いつもご贔屓にありがとうございます」




「いやいや、俺こそいつもうまい飯を食べさせてもらってるからなぁ!」





「でも会いたい人に似てるからってご贔屓にしていただいて嬉しいのか申し訳ないのか・・・・・・少し困っちゃいますね」




「お?」




ちゅるり、と蕎麦を吸い上げた坂本さんがきょとんとした顔で私を見つめた。



ただでさえ大きな目が驚きに見開かれ、膨らんだ頬はまるでリスみたいに頬袋に頬張っている様子でおかしく面白い。




思わず吹き出すように笑ってお茶をついであげるとごくりと蕎麦を飲み込んで、机に身を乗り出す様にして顔を寄せて私の顔を覗き込んだ。





「なんだ、お前さんわかってなかったのか?」




「! え?」




突然縮まった距離に驚いて身を引くと、少年みたいな笑顔が浮かべられて坂本さんはぴんっと私の額を指で弾いた。





「俺はお嬢に似てるお前さんに会いに来てるわけじゃなくて、お前さんに会いに来てるんだぜ」






「え……それって・・・・・・」







「だから、そろそろ龍馬さんって呼んでくれねぇか? 名無しさん」





名前を呼ばれたその瞬間頬が一気に赤く染まって、それを見た龍馬さんは楽しそうに笑って囁いた。






「けっこう前から一生懸命働いてるお前さんが好きだったんだ」




2013/06/12
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