遙か四
□帰る場所
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「・・・・・・ん」
「あ、起こしてしまいましたか?」
「・・・・・・、!?」
目を開けてぼうっとしてから、ばっと飛び上がるように起きた鷹通さんにくすりと笑ってしまった。
「も、申し訳ありません! 女性の膝を借りて眠るなど……っ!」
かあああっと頬を赤らめて鷹通さんは恥ずかしそうに謝った。
「お疲れのようでしたから、私の膝が心地いいのでしたらどうぞ使ってください。・・・・・・眼鏡、もっと静かに外すべきでしたね」
眠りにくいのでは、と眼鏡を外したことを今更ながらに後悔した。もっとゆっくり眠ってくれたらよかったのに、と。
「・・・・・・お気遣いありがとうございます。ですが頭がすっきりしましたので大丈夫ですよ。ありがとう」
幾分落ち着いたのか穏やかな笑みに戻って礼を言った鷹通さんにほんの少し不安を覚えた。
「でも、ほんとうに最近忙しそうですよ? 宮中でのお仕事もそうですけど、神子様の八葉としてのお勤めも大変そうで・・・・・・」
本当に大変そうで、そんな彼に何もしてあげられないことに胸が痛む。
「私の使命ですから。仕事は本分ですので手を抜くことなどできませんし、八葉の務めもこう言ってはなんですがとても楽しいものですよ」
そう告げる笑顔は確かに楽しそうで。
でも私はその笑顔に胸をぎゅっと掴まれたような心地を覚えた。
「…どうか、しましたか?」
頬に手を当てて窺うような鷹通さんに私は逡巡しながら口を開いた。
「・・・・・・鷹通さん、最近本当に充実していて、楽しそうで・・・・・・なんだか」
―――――なんだか。
「遠くへ、行ってしまいそうで・・・・・・」
―――――それが、ひどく怖い。
ぎゅっと手を握りこんだ私の手に手を重ね、鷹通さんは小さく微笑んだ。
「・・・・・・あなたを置いて遠くへなど行くはずがありませんよ」
「鷹通さん…」
「あなたは私が生涯愛したただ一人の人・・・・・・」
低い声が甘く囁いて私の額にこつりと額を合わせた。
「仕事や使命に精を出した後帰るのは確かにここなのですから」
(帰る場所)
2013/06/5