遙か四

□腹を探りあい
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「紫陽花の花ことばって移り気なんですって。まるで弁慶さんみたいですよね」



にっこりと笑顔のままのたまった私を弁慶さんも見事の笑顔で迎えうった。




「おや、心外ですね。僕はこんなに一途なのに」




「一途って言葉の意味、知ってますか? 弁慶さんにはあちこちに愛人がいるとかいないとか」




「嫌ですねぇ…嫉妬ですか? 心配しなくても僕には一人しか惹かれている相手はいませんよ」




「嫉妬なんてとんでもない。弁慶さんに思い人がいただなんて話初めて聞きました」




こんな風なやりとりが始まるとみんな怯えたようにそっと傍から離れていくのはもうすでに慣例みたいになっていて、今も私たちの周りからみんなが離れて行ってしまった。






「ところで」





す、と弁慶さんが裾をさばきながら私の方に膝を向けたのを気配で察して私も彼に顔を向けた。





「そろそろ気持ちを聞かせてくれてもいいんじゃありませんか?」




小首を傾げてそうのたまった弁慶さんに思わず笑みが固まった。





「・・・・・・・・・・・・は?」





「そろそろ言ってほしいんですよ。「好きだ」って」






「・・・・・・私たちそんな甘い間柄じゃなかったはずですけど」




「君は一度だって言葉にしてくれませんからね。夜になれば僕にしがみついて甘える仕種だって見せるのに…」




「わぁあああああ! 何を言いだすんですか、昼間から!! そ、それに弁慶さんだって言ってくれたことないじゃないですか…」




「いつだって態度で示しているでしょう? まぁ、先にどちらが言うかなんてどうだっていい話なんですが……負けず嫌いで意地っ張りな君から先に言ってもらえたら・・・・・・さぞかしいい気分だろうな、と」





「〜〜〜〜〜〜っ!?」





くす、と笑って言われた言葉に眉間にしわが寄った。






「ぜ、ぜーーーったい先になんて言いませんから!」




「勝負しますか? 先にどちらが「好き」だと言うか」





「いいですよ、望むところです!」




む、としながらそう叫んだ私に弁慶さんが笑みを深めた。すっと立ち上がって近寄ってくる弁慶さんに腰が引けているとぐいっと腕を引かれて抱きこまれた。




「では僕の部屋に行きましょうか」




「は?」





「・・・・・・言わせてあげますよ、僕のことが「好き」だって」




満面の笑みを浮かべてそう言いきった弁慶さんにさっと血の気が引く。

叫んで助けを呼ぶ前に、口を塞がれて。


私は泣く泣く彼の部屋に連行されてしまったのだった。








―――――――――――――




「強情ですねぇ」




「も、やだぁ……っ」




「・・・・・・まぁ、言わなくてもいいんですけど。かわいいですよ」




「ふ、ぁ……っ」




「もっとどろどろに溶けたら言ってくれますか?」



「〜〜〜〜〜〜っ!!」





(腹の探り合い)
2013/05/29

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