遙か四
□ゆっくりと距離をつめ…
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人の世に関わり合いを持ちたくない。
けれどもそれは不可能で。
わけあって白龍の神子一行と行動を共にするようになった私は、人の悪意に敏感で他人の内情がたまに読めてしまう。嫌がっても自分の意思ではどうにもならないその能力を知っているからこそ、出来るだけ心を閉じて距離も置いていた。
心を許せるのは、動物たちだけだった。
「名無しさんの表情が変わったところを見てみたいね。あの単調な会話と無表情がどんな風にか変化を遂げるのかな」
ぽつりとつぶやいた俺に白龍はきょとんとした顔をして見せた。
「名無しさんは優しいよ。いつも私に笑いかけてくれる。龍の波動は気持ちいいって」
「・・・・・・笑顔? 名無しさんが? ちょっと考えられないね。想像がつかないよ」
肩を竦めて鼻で笑うと白龍が少し困った様子を見せた。
それを見て大人げなかったかと反省し、その小さな頭を一撫でして部屋を出る。
―――――笑う? 笑う、ねぇ…。
異能を持った名無しさんと言う少女。
人の心が読めるという彼女は人を遠ざけ出来るだけ人に近づかないように距離を保つ。
別にどうだっていいのは確かなんだけれど…やりにくいと感じる自分もいた。
森の中へと足を進めてしばらくすると、微かな声が聞こえてきて俺は足音を忍ばせ気配を消してそちらに近づいて行った。
「・・・・・・そんなことがあったの。人はあなたに優しい? ――――――そう、それならよかった」
――――それはまるで、女神の様な姿。
光り差すその場所で周りを動物たちに囲まれ、頬や頭を撫でながら意志の疎通を図る一人の少女。
無表情ではなかった。
単調な会話ではなかった。
優しげな温かな笑みを浮かべ、労わり話に耳を傾け返事をする。
最初彼女だと気づかなかった。
この女神は、誰なのだろう、と・・・・・・。
そう思ったその瞬間に、現金にもオレは一目ぼれをしたんだ。
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