遙か四

□その声に恋をした
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路上でうずくまっている人を見つけて私はかけよって声をかけた。
でもその人は私をお姉ちゃんと勘違いしたみたいで。

「将臣の家に連れて行ってくれ」と頼むその人に、知り合いなら訂正しなくてもいいかとその手を引いた。


でも私にすべてを預けたようなその男性に不思議な気分になる。

お姉ちゃんはいつの間にこんな男性と出会ったんだろう。しかもちょっとかっこいいし。
相手にすべてを預けられるくらい信頼されてるなんてすごいな、と思った。



さすがお姉ちゃん、と思いながらも少し胸の奥がちくちくするのには知らないふりをして。




将臣くんの家に着くまでの道中、私は道の状況を詳しく伝えたつもりだったけど目が見えないことが不安だったみたいで、その人はいろんな話をしてくれた。



怨霊とか、兄上とか、平家とか。



本当にいろんな話が出てきて、どこかファンタジーの話を聞いてるみたいだなって思って。


でも至極真面目に話すその人を馬鹿にする気にはなれなくて、むしろその人の持っている信念やまっすぐさがよくわかって楽しかった。






ピンポン。




家のチャイムを鳴らしてみたけど返答がない。




「留守かなぁ?」



「かもしれん、な」




ごしごしと目を擦ったその人を慌てて止めて叱咤する。




「こら! ダメですよ、目を擦っちゃ! ばい菌がはいっちゃうし眼球を痛めるでしょう。かゆいんですか? それとも、痛い?」




「す、すまん。少し・・・・・・かゆいんだが、それ以上にもどかしくてだな」





虚をつかれたように一瞬押し黙って答えたその人に、お姉ちゃんはこんな風には叱らないんだな、と気づいて少し反省した。




「温めたタオルをあてましょう、そうしたら少しマシになるかも」



「ああ…」



有川家のお母さんから預かった合鍵を使ってドアを開けると、リビングに彼を促してソファに寝かせた。




「ね、寝るほど悪いわけじゃない」



「知ってます。でもタオルを当てるなら寝てた方がいいですよ」




私の言葉に合点したのか、彼はすんなりとソファに横になった。



それをよしよしと思って見ながら、手早くタオルをお湯で濡らして絞り彼の目元に押し当てた。




「少し熱いですよ?」



「っ」




一瞬びくりと跳ねた体から徐々に力が抜けていく。面白いなぁ、と思いながら見ていると彼はお腹の底から息を吐き出した。




「は、ぁ……気持ちいい・・・・・・」





「でしょう? でも一日経っても治らなかったら病院に行ってくださいね? 将臣くんに伝えておきますから」




「・・・・・・ああ。なあ、望美」




「・・・・・・」




望美、と呼ばれて反応することになんとなく抵抗があって、ずれた目元のタオルの位置をわずかに戻した。




「少しの間、握っていてくれないか」




ほんの少し右手が挙げられた。不安げな声に苦笑して・・・・・・お姉ちゃんだと思って甘えているんだろうということにほんの少し切なくなって。



でも今だけなら、とその手を両手で包み込んだ。






「――――ありがとう」




微かに微笑んだその姿に、何故か胸が疼いた。


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