遙か四

□その声に恋をした
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「く……っ」



不覚をとった、とその場に膝をついた。
気配からして怨霊や俺に危害を加えようとする者が近くにいるようではないが、それでも武士としては今の自分の無防備さが怖い。




怨霊の攻撃を、うまくかわして倒したと思っていた。だがそれは間違いだったようで。




「・・・・・・目が見えん」




多分一時的なものだろう。もしくは弁慶に薬を作ってもらえばなんとかなるだろうか。
暗闇をまっすぐ見つめ、なんとするかと考える。ここは望美たちの世界だ。向こうの世界よりも危険が多い。「車」という金属の大きなものが突然迫ってくるとも分からない。




「・・・・・・」



ケータイ、と呼ばれるものを懐から取り出そうとごそごそ探るがうまく行かない。


目という器官がこれほど重要だったとは・・・・・・なくして初めてわかるものだと苦く思う。





「あの、大丈夫ですか?」


近づく足音に身を固めたと同時にかけられた声に俺ははっと顔をあげた。





「! 望美か?」





闇の中に希望が差したみたいだ。




「え、と…」



「助かった。怨霊の攻撃で目をやられたようだ。一時的なものだとは思うが、目が見えん。すまんが、将臣の家まで連れて行ってくれないか?」



「将臣くんの?」




尋ね返した声にほっとする。
やっぱり望美だ。
闇の中に気配だけを頼りに手をのばす。



手のひらを探り当て、きゅっと握った。




柔らかい手だ。



それに何故か違和感を感じた自分に首を傾げる。





「不覚をとった」




後悔を滲ませてそう告げると、彼女は俺が握った手を上から包み込むように手を重ねた。




「相手が上手だったんでしょう、きっと。将臣くんの家に行きましょうか」




そっと俺の手を引く小さな手。


いつもの望美らしくないなと思った。俺の後悔を包み込むような優しい声で、俺の肩をそっと叩いたような。
でもそれに心を救われたような心地になった。
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