遙か四

□キスをするのはあなただけ
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あの夜会の日から、彼のことばかりを考えるようになってしまった。




金色の髪の王子様みたいな人。




買い物に出ていても思わず周りを見回して金色の髪を探してしまう。




「え…」



雑踏の中に金色の髪を見つけて、胸が大きく高鳴った。


慌ててその方を見ると確かにアーネスト殿で。



偶然と言うのはあるのだと、ときめく胸をおさえて見つめながら足は勝手にそちらの方へと向かった。


・・・・・・でも。




「ゆき、あなたの髪はさらさらですね」



「アーネストの髪も、綺麗だよ?」



「ふふ、マイプリンセス。可愛い人だ」



聞こえてきた会話、そして二人を包む甘い雰囲気。

・・・・・・もしかして、二人はそういう仲なの?



ときめいていた胸がざわざわと動いて意気消沈するようにしぼみこむ。











そして。





「ほら、艶やかで綺麗な髪ですよ」





白い手袋をはめた指先で彼女の髪を一房つまみあげた。


それを見た瞬間さっと踵を返す。身を隠す様に雑踏にまぎれて足早にその場を後にした。




・・・・・・なんて愚かなのだろう。





舞踏会でひと時会話を交わしただけの異性に、異人に、甘い言葉で囁かれ微笑まれ恋をするなんてどれほど愚かなのだろう。




彼は悪くない。



勝手にいい気になって心を動かしたのは私の方だ。





「……っ」




涙がこぼれても、その涙が悲しみからくるものなのか自分が可哀想で流れ出たものなのか自分でもわからなかった。


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