遙か四
□繰り返す
1ページ/1ページ
「リズ先生。私、九郎さんのこと・・・・・・」
私が愛し、私だけを愛していると思っていたその養い子は、九郎と惹かれあった。
「・・・・・・何故だ」
声低く尋ねた私に彼女は初めて怯えた顔を見せた。
「お前の莫大な霊力を抑えきれるのは、鬼である私しかいない」
「九郎さんは、考えようって言ってくれたの。ちゃんと制御できるようになろうって。二人なら、きっと出来るって……っ!」
必死な様子で言い募る彼女を壁際まで追い込み、顔の両側にダンッと拳を降ろした。
恐怖に引きつったその顔を見下ろして、私はもう一度言い聞かせた。
「お前には私しかいない」
唸るようにそう言った私を見上げて、彼女はふるふると首を横に振った。まなじりに涙を溜めて、首を、横に。
―――――そうか。
その真珠のように煌く涙を見て、その涙を自分だけのものにしたいと思った。
だが今の彼女の心は私に向いていない。
ならば…。
「り、ず・・・・・・せんせ・・・・・・」
ただでさえ大きな目が見開かれてその瞳に私の姿を映す。
私を映したまま光を失くした目を見下ろして、まだ体温を宿したままの体を抱きしめた。
「・・・・・・これもまた、運命だ」
だらりと力なく垂れた手を持ち上げて頬に押し付ける。
「お前は私だけのものだ。他の誰にも、渡さない・・・・・・」
その体から流れ出る血潮の熱さを感じながら、剣を払って懐に収める。
「・・・・・・もう一度やり直そう。お前が私だけしかその目に宿さないように」
逆鱗を取り出してそれに口づける。
「何度だって・・・・・・私とお前が惹かれあう運命に行きつくまで、何度も何度でもやり直そう」
その部屋の中には応とも否とも答えるものはおらず、すぐに白い光と共に人の気配がなくなった。
―――――何度でも繰り返そう。
――――――お前は私だけのものなのだから。
2013/05/08