遙か四
□さくらいろ
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すっかり体調も良くなったらしく、明日からは同行できそうだと言って床から身を起こした名無しさんにオレは手に持った簪を差し出した。
「やる」
「え?」
きょとん、とした名無しさんの顔に一気に気恥ずかしさがこみ上げた。
「ろ、露店で見かけてお前に似合いそうだと思った。だから……っ」
そっけない渡し方だ。
オレが突き出した片手からそっと簪を受け取って、名無しさんはまじまじとそれを眺めた。
――――もしかして気に入らなかっただろうか。
反応の薄さに思わず不安になっていると、名無しさんがふっと口元を綻ばせて嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、チナミくん。すごくかわいい」
その笑顔にほっとした。
「気に入ったか?」
「うん! 桜色で、小さい花もたくさんついててすごくかわいい!」
そう言ってそんなに長くはない髪を器用に結い上げて簪を挿した。
「どう?」
「・・・・・・」
「・・・・・・似合わない?」
「に、ににににににに、にあ、似合う、と思う……っ」
女性を褒めることなど慣れていなくてつい視線を逸らして自身の髪をぎゅっと握りしめた。
もう少し普通の態度で言えないのか!?
自身に対してそう苛立ったが……ちらりと見た名無しさんの顔がとても嬉しそうだったからまぁいいかと思った。
2013/4/03