遙か四
□君は誰がもの
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寝る前に様子を見に行くだけのつもりだった。
けれど気配もなくまだ微かに温もりを残した無人の寝床に、オレは慌てて屋敷を飛び出した。
ぱしゃ・・・・・・ぱしゃ・・・・・・。
水をかきわけるような音にオレははっとしてその音を追いかけた。
浜に降りて目を凝らすと、水をかき分けるようにして徐々に海に身を沈めていく彼女の姿を見つけ、血の気が引いた。
「何してるんだよ!?」
なりふり構わずに、濡れることも厭わずに海の中に身を沈め彼女を抱きとめる。
「死なせて・・・・・・お願いよ・・・・・・あの人のところに、行かせてよ……っ」
寒さに震えた声。
いくらなんでも衰弱した体に夜の海は体力を奪う。
舌打ちしたいような気分になりながら、オレは彼女に見惚れた。
「・・・・・・死なせない。死なせやしないよ」
力強くそう言って、彼女を腕の中に抱き上げる。
水を吸い込んだ着物が重くて、でもその重みは彼女が生きている証拠で。
「・・・・・・不謹慎だけど、お前の泣き顔・・・・・・すごく、綺麗だ」
そう言った俺の声に彼女の体が震えた。
「・・・・・・あの人も、そう言ってくれたの・・・・・・」
返された小さな声に彼女を抱き締める。
(一目惚れした君はすでに他の男のもので)
―――――死んだやつが相手じゃ勝ち目がない?
―――――そんな男よりも、生きているオレの方がお前のことを愛してあげるさ。
だから、生きて・・・・・・。
2013/03/29