遙か四

□裏切りの報いとその果てに
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しゃらん、と簪が頭の上で音を立てる。


弁慶さんに贈ってもらった簪。贈り物の中で一番思い入れの深いそれを挿し、私は彼の姿を探していた。



熊野の地を離れ、源氏のみんなとともに平家と戦う旅に出た。


まさかこんな時代に飛ばされてしまうなんて。


しかも、あの武蔵坊弁慶を好きになるだなんて。


人生、何があるかわからない。




「あ…」




庭に弁慶さんと九郎さんの姿が見えた。

でも……二人の雰囲気が何だか・・・・・・。




「そんな言い方は彼女に失礼だろう!」



「…彼女は熊野との繋ぎですよ。真実愛しているわけじゃありません」









―――――え?







耳を疑う言葉に私は声をかけることを踏みとどまった。


「だからそんな言い方はよせと言っているんだ!」




「九郎こそ、ずいぶん熱心に噛みつきますね・・・・・・っ」



不機嫌そうにため息をついた弁慶さんがふっと視線を九郎さんから逸らした。


そして・・・・・・私と目が合ってはっと動きを止める。その隣で九郎さんもしまったとばかりに身を固めた。






「・・・・・・おや、聞いていたんですか?」




ほんの少し驚いたように弁慶さんはゆっくりと首を傾げた。

でもすぐに笑顔に戻ると・・・・・・人を小馬鹿にしたような笑みを口元に浮かべた。




「知られてしまったなら仕方ありませんね。すみません。僕、実は君のことを騙していたんです」




変わらない笑顔。


その笑顔のまま、弁慶さんは残酷な事実を告げた。





「僕は、君のことをこれまで一度だって愛していると思ったことはないんです」







『君のことを、愛しています。これまでこんなに愛しいと思った女性はいなかった・・・・・・愛しています、名無しさんさん』





愛を囁く声も、愛を否定した声も、同じ声音だった。
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