遙か四
□いつかまた
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「ん・・・・・・雨か」
神子殿の命の残数を示す池の蓮。
我ながら悪趣味だと思いながら、池に落ち始めた雨の雫がどんどん波紋を広げていくのをなんとなしに見つめ続けた。
雨の匂いが鼻をつく。
雨に濡れた土も独特の匂いを発していて、実は自分がその匂いを嫌いではないということに今更ながら気づく。
「雨だれの音も、嫌いじゃないんだよね」
しとしと降る雨が奏でる旋律。
空を見上げると、雲がない。
晴れている空から降り注ぐ雨に目を細めた。
「これを天泣というんだっけかな」
天が泣くと書いて天泣。
なんて綺麗な日本語。
「ん?」
ふとその空から雨よりもずいぶん大きなものが落ちてくるのが見えた。
「人、か?」
まさか空から人が落ちてくるなどあり得ない。
そんなの、超人的な力が働いているとしか・・・・・・。
はたして、いいものか悪いものか、それを注視して、僕はそれを追った。
別に正義感とか、そんなものじゃない。
ただ気になった。
ただ、それでけで。
邸を出てその人らしきものを追いかける。
雨のせいか人通りもまばらで、その誰もがあれに気づいていないらしいと思って歩を早めた。
次第に駆け足になって落ちてくるそれに必死に腕をのばす。
そして。
「!?」
腕の中に落ちてきたのは、あまりにも軽い女の子だった。
たぶん、神子殿よりも幼い。
ずいぶん、心臓の弱った少女だった。
「う・・・はぁ・・・は・・・・・・」
荒い呼吸を繰り返す彼女にぐっと眉間にしわが寄った。
腕に抱いたその瞬間はあたたかく濡れてもいなかった少女だが、すぐに空から降り注ぐ雨で濡れそぼり体温を奪われているのが分かった。
「・・・・・・君は、何?」
直感で言えば悪いものではない。
その直感に従って、とにかく今は彼女をどうにかしてやらないとと思った。
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