遙か四
□運命という名の引力10
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北条政子が攻めてきた、という情報だけは耳に入っていた。
でも私は兵たちの治療をするのに必死で、戦うことは他の人に任せて自分の出来ることをしようと、景時さんに恥じない行いをしようと励んでいた。
それなのに。
―――――まさか自分が北条政子に捕えられるなんて、思わなかったんだ。
「ふふ。かわいい子・・・・・・景時が夢中になるのもわかるわ」
きゅ、と赤い唇で弧を描き笑う彼女を見つめて思案する。
おそらく私がここで捕まっていることは、景時さんにとってよくないことだ。
どうにかして、逃げなければ・・・・・・。
そう考えたとき、細く長い指先が私の顎を持ち上げた。
「ねぇ、あなたは景時を従順な犬にする方法を知っているかしら?」
「なに…」
「私は知っているわ」
甘い声が、耳元で囁いた。
「景時にあなたを殺させるの・・・・・・そうすれば、大切なものを亡くした景時は壊れて私たちの従順な手駒になる」
くすくすくす。
耳に楽しげな笑い声が滑り込み、私の思考はよどみ濁った。
―――――景時さんに殺してもらえば・・・・・・もう、苦しいことも…辛いことも…全部、全部、なくなって・・・・・・楽になれる・・・・・・―――――。
くすくすくす・・・・・・いい子ねぇ……。
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