遙か四

□運命という名の引力9
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雪の降り積もった庭を眺めていると、隣に九郎さんがやってきてあぐらをかいた。



「・・・・・・」




「・・・・・・」






どうしたんですか、と聞けばいいのになんとなくタイミングを逃してしまって再び庭に視線を戻す。




――――いつだったか、雪の降る庭を見ていたら景時さんが後ろから抱きしめてくれた。その温かさを思い出すと、今の寒さがとてもさみしい・・・・・・。





あの人に分け与えてもらった温かさを、私もあの人に返せていたんだろうか・・・・・・?






「・・・・・・ずっと」




「え…」




「ずっと、謝ろうと思っていたんだ」






まっすぐ庭を向いていた九郎さんの視線が私に戻される。その瞳に宿る光はとても真摯なもので、そういえば最初のときも落ち着いてみればそんな目をしていたのにパニックになってしまったのだと思い出す。

それほどあの時の自分には余裕がなかった。






「・・・・・・お前の事情を知らなかったとはいえ、怯える女性に対して取る態度ではなかった。反省している。すまなかった」





「あの時、景時はお前のことを愛しているのだと気づいた」

「今思えば、景時は常に兄上の意向通りに動いていた。俺が退出した後も残されることがしばしば・・・・・・あの頃はそれが景時への兄上の信頼の証だろうと思っていたが……あいつが諦めた顔をしていたのに・・・・・・気づいてやれなかった俺の不甲斐なさなのだろう・・・・・・」




後悔を滲ませて遠くを見やる九郎さんに私は微かに首を横に振った。




「いいえ、不甲斐なさなんて・・・・・・誰にも言えず一人で抱え込んだのは、景時さんの弱さであり、優しさであり、強さでもあったんですから・・・・・・」




誰が悪いわけでもない。



「私、思うんです。このお腹に・・・・・・景時さんの子供を授かることが出来ていればよかったのに、って。そうしたら私はその子を心のよりどころにして生きていくことが出来るのにって」





「・・・・・・」





「でも、授かってはいなかった・・・・・・」





あの人が私の傍からいなくなるのなら、せめて子供を・・・・・・。




そう思っていた。でも、月日と共にその希望は露と消えて・・・・・・。





「・・・・・・きっと、心のよりどころにしようとしたからですね。授かった命を心の底から愛さなければならなかったのに、私はあの人の代りにしようとした・・・・・・だからきっと、神様は私に親の資格がないと思ったんでしょう・・・・・・」





「・・・・・・一時、死にそうな顔をしていた。だが今は違うな」





「・・・・・・」





小さく笑みを口元に浮かべる。





「片恋は、離れていても、一人でも、いつまででも、出来ますから」






「・・・・・・そうか」





「はい。いつか景時さんと再び道が交わるときが来るかもしれない。来ないかもしれない。わからないけれど・・・・・・でも」





―――――――あの人を好きな気持ちは変わらない。






「・・・・・・お前は強いな」




「そう、でしょうか?」




強いと言われてもピンとこない。



むしろ・・・・・・弱いと思うのだけれど。





「名無しさん」




「!」





九郎さんの声が張り詰めた。


反射的に背筋を伸ばすと、しんとした瞳を向けられた。










「戦が始まる」










―――――あぁ。











あなたと戦う日が・・・・・・来てしまった。


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