遙か四

□運命という名の引力8
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傷ついた目をした彼女の顔がまぶたの裏に焼き付いている。

兵たちに指示を出して林の中に足を踏み入れた。




「・・・・・・」




喧騒から離れ、林の中に足を進みいれて・・・・・・






「……っ!」





ガン、とこぶしで木を殴りつけた。





どうして彼女を手放さなくてはならなかった?




こんなにも、愛しているのに……っ!





「くそ……っ!」





歯を食いしばって脳裏から愛しい彼女の顔を追い出そうとする。


でも彼女は責めるみたいに傷ついた顔で俺を見つめるばかりで。






本当は、一緒にいたかった。




許されるならずっと一緒に。





生涯を共にしたいと初めて思った相手だった。






でも……。







「駄目、なんだよ…」





今は、まだ・・・・・・駄目なんだ。







「―――――」






もう、名前を呼ぶことさえ許されない。




愛しい、女(ひと)。







自分の手をじっと見下ろす。




図体ばかりがでかくて、まるで強くない自分がほとほと嫌になる。




でも、どうしようもなく俺は俺でしかいられない。




だから俺は・・・・・・俺のやり方で、君を守るよ。




一緒にいることは、出来ないけどさ。






この手を、好きだと言ってくれたのはいつだっただろうか。




俺の心の変化に気づいてすぐさま黙って隣に寄り添ってくれたのはいつだっただろうか。





きっと、きっとね。





君は俺に救われたと思ってるんだろう。




けど違う。





俺の方が、よっぽど・・・・・・君の存在に救われていた。




あんなに心穏やかに、幸せを感じられたのは、初めてだったんだ。





何も見栄を張ることなく、自分でいられた。俺でいさせてくれた。







「あ・・・・・・」





――――愛してる。










「景時。頼朝様がお呼びよ」





「―――――御意」




振り向いた先にいる、妖艶な笑みを浮かべた政子様。



恐ろしい人だ、と思う。





「寂しくなったわね。景時?」




「いえ。元より、仲間とは思っておりませんでしたから」



「あらあら…冷たい言葉」




くすくすと笑って見せた彼女に頭を垂れる。








―――――そう。もう、何もかも俺の手には残っていない。




だから俺は・・・・・・どこまでも冷酷になれる。





「九郎追討の件は私にお任せください。必ずや、息の根を止めてまいります」
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