遙か四

□運命という名の引力6
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「兄上、お帰りなさい」


「ただいま。何か、変わったことはあったかい?」



「それが・・・」


困ったような顔をした朔に聞かされた話に、俺は目を見開いた。



「・・・・・・そう、か」




「うなされている様子はないの。ただ・・・・・・なんとなくいつも寂しそうなの」



「わかった。俺が一回聞いてみるよ、だから朔はいつも通りに接してあげて」



「ええ・・・」


気遣わしげな顔をして頷く朔の頭を一撫でして、俺は廊下に出た。




―――――また食欲が落ちている。




夢見が悪いのか、それとも・・・・・・。



「俺のせい、かな・・・」


自嘲の笑みとともに呟いて、あの夜のことを思い出す。


頼朝様の命の下、手を汚した日だった。


汚れないのに汚れている。



だから余計に何度洗っても洗っても足りない気がして、寒空の下だと分かりながら水を被っていた俺を止めた彼女。

最初彼女の無茶に肝を冷やして・・・・・・でも水を被ってまで俺を止めようとしてくれた彼女が愛おしくてたまらなくなった。




気づけばその華奢な体をかき抱いて口づけて。




そのまま強引に事を運んで、彼女の操を奪った。




抵抗するそぶりは見えなかったけれど、無理にそういう行為に及ぶことがあってはならないと自戒していたのにそんな風に彼女を手に入れたことに自分自身に怒りを覚えて。




彼女の全てを手に入れたことに満足感を得た自分は、彼女を欲のために襲った男たちとなんら変わりがないのではないかと思ったが最後・・・・・・彼女に触れることも、怯えられることも、全てが怖くなった。


彼女に近づいて万が一にも拒絶されることが怖い。










臆病な俺は。卑怯な俺は。









怖さから彼女と距離を取ったんだ。

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