遙か四

□運命という名の引力4
2ページ/4ページ






何日も共に過ごすうちに、彼がとても優しい人だと身に染みて分かった。




最初のうち、近づくたびに固まり小さく震えていた体を彼にも知られていたんだと思う。

でも次第にそれも収まり、隣に立っても怖くなくなった。

彼なら触れられても気持ち悪くなければ怖くもない。



そんな風に思っていたある日。





「お前・・・・・・何者だ? 朔殿ではないな」



怪訝な顔をして私に近寄ってきたその男性に、私はその場に足を縫い付けられたように凍りついた。



「あ……ぁ……」



腰にはかれた刀に嫌な記憶がよみがえる。



自分よりも大きな男性に威圧感を覚える。



それらはすべて自分の中のパニックを引き起こすトリガーで。




「ひゅぅ……っ、は……っ」




「? どうした、様子がおかしいが……まさか賊ではないだろうな?」




疑いを強めた目でその男性は私に向かって。





手を。




手を。




伸ばし――――――――。







「いやあああああ! いやっいやっやあああ……っ!!」




「!? おい!」





弾かれたように私は彼に背を向けて走り出した。


荒げられた声にももう恐怖しか覚えず、ひたすらにどこを目指しているのかわからないままに走り出す。



「待て! おい!!」




けれど足の速さはやはり男の方が早く。


私はたやすく腕を絡め取られてしまい、怖気が走った。





「……っ!」



「名無しさんちゃん!」






その時。






絡め取られた私の腕を、奪い返すかのように。




問答無用で私を腕に抱きかかえ、優しい声が耳に囁いた。





「大丈夫…大丈夫だよ・・・・・・怖いものは、何もないから……俺が、助けてあげるから」




「ひ・・・・・・あ、あ、ぁ……か、げと、き、さ・・・・・・」




ふぅ、とやっと肺に呼吸が入ってきた気がした。



涙のにじむ視界でいつも景時さんが着ている服の模様を見つめ、震える指で縋るようにその服を握り締める。


上手く息が出来ない。



浅い。



浅い呼吸が苦しい。



苦しくて、ひどく辛くて。



「は、ぁ、ぁ……」



「大丈夫。ほら、吸って・・・・・・吐いて・・・・・・吸って・・・・・・吐いて」



優しく促すその声に従って息を吸ったり吐いたりするとやっと呼吸が楽になった。




「・・・・・・上手だよ。そのまま、ちゃんと呼吸するんだよ?」



「は、い・・・・・・すみませ・・・・・・」


「謝らなくていいよ・・・・・・ね、もう大丈夫。俺がいるからね」



そう言って抱きしめてくれる腕は怖気も走らず気持ち悪くもなく、どちらかといえば安堵さえ覚えて。




――――もしかすると、私は依存かも知れないけれどこの人に惹かれているかもしれない。



この人の優しさに依存して縋って乞うように求めているかもしれない。



そう、気づいてしまった。

.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ