遙か四

□運命という名の引力4
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「今日は洗濯日和だね〜」



秋晴れの空を手をかざして見上げ彼女を振り向くと、名無しさんちゃんは小さく笑って頷いてくれた。



「そう、ですね。ほんと・・・・・・いいお天気」




青空を仰ぐように見上げる。
少しずつ食欲も出始めたみたいで、顔色も普通になってきた。

心配するほど食欲不振が続くようだったらもう一度弁慶を呼ぼうと思っていたが……その心配はなさそうで、よかったと思う。



「名無しさんちゃんは料理が上手だね。普段から作ってたんだね〜」



「上手、ですか?」



「うん。美味しいよ。俺ってばやっぱり男料理だからさ、有難いね」



「・・・・・・お役に、少しは立てていますか?」



「…もっちろん! 助かってるよ」



は、と息を詰めたのがわかってしまっただろうか。


まさか気にしているとは思わなかった。いや、彼女の性格なら気にしそうなものだとわかりそうなものなのに配慮が足りなかった。


居候することに、申し訳なさを感じているのか。


確かに見知らぬ男と二人で生活をするということ、帰る場所もなくずっと世話になるしかないかもしれないということ、それはもし自分であったら肩身が狭いだろうなと思うのに。


彼女が食事を作ったり家事を手伝ってくれたりすることが、何かをしていた方が気がまぎれるというだけではないと今更ながらに気づいてほぞを噛む。



ほんの少し一緒に過ごしただけでわかる。
彼女が細やかな性格で、相手を思いやることのできる人だと。

けれどそれは逆に、人に気を遣うということでもあって。



もっと早く、お礼を言うべきだった。


もっと。



俺は改めて俺の隣に小さな肩を並べて洗濯物を干そうとする彼女を見やった。




そして。





「・・・・・・俺は、君がここに来てくれて嬉しいんだ。ありがとう、名無しさんちゃん」






俺を見返した小さな笑顔が心の底からのものだとわかって、胸の奥が小さく鳴った。










そんな感情を彼女に向けてはダメだ。


彼女は今立ち直ろうと必死なのに。



俺が下手な横槍を入れては、ダメだよ・・・・・・。





そう考えて・・・・・・俺は自分の胸の高鳴りに気づかないふりをした。
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