遙か四
□運命という名の引力3
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おどおどと彼の様子を観察しながら作ってくれたという朝餉を食べる。
一汁一菜の簡素な食事だったけれど自分の胃は食べ物をあまり受け付けてくれなかった。
そんなにショックだったのだろうか、それはそうだろう、と自問自答して私は自分の両手の間の器に視線を落とした。
ここは、私のいた時代じゃない。
景時さんから聞いた話と昨日の男たちの様子、そしてこの家の作りを見る限り自分がいた時代ではないのだと納得せざるを得なかった。
帰れないかもしれない。
その事実も自分の精神を苛んでいる。
「オレには君と同じ年頃の妹がいてさ、今は少し遠出をして寺に参拝に行ってるんだよ。早く帰ってくればいいんだけどね〜」
さっきから明るい話題を選んで笑顔で話してくれる景時さん。
行く場所がないと告げたら「じゃあここにいるといいよ」となんてことないように言ってくれた優しい人。
「ごちそうさまでした」
器を膳に置いて手を合わせた景時さんを見て私も膳に器を置いた。
「ごちそうさまでした…美味しかったです」
それは本心だった。
ただ、量は食べられなかったけれど。
器の中にはまだ半分ほど残っている。
「そう? よかった」
景時さんはちらりと私の器を見ただけで何も言わなかった。
せっかく作ってくれたのに、とは思いながらもそれ以上口にすることが出来なくて器を持ち上げる。
どこで洗えばいいか聞こうと思い、でも景時さんがまだ食事中だと気づいて器を置いた。
彼が食べ終わってからにしよう…。
それにしても。
ぱくぱくと料理を口に運ぶ景時さんに驚いた。
男の人って、こんなにいっぱい食べるものなの?
でも気持ちいいぐらいに食べる景時さんの姿になんだか和んでしまって、もう少し何か話してみたいという気分になれた。
「私に料理を教えてもらえますか?」
「え? ええ? 料理、かい?」
「はい。何もせずにお世話になるのは辛いので・・・・・・」
行く場所がないならここにいればいい、と言ってくれた景時さんの優しさに縋るしかなく、そうなれば働いて返したいけれど外に働きに行けるほど知識もなければ精神的にも危うい。
「う〜ん・・・・・・わかったよ。じゃあ明日から一緒に作ろうか」
迷った素振りを見せながらも頷いてくれる景時さんはやっぱり優しいと思う。
きっと何かしていた方が気がまぎれる、という心を見透かされていたのだろうとも思うけれど。
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