遙か四

□運命という名の引力2
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弁慶がやってきてオレが伝えた状況に微かに眉を寄せた。


清めて朔の着物を着せた彼女の裾をもう一度割った弁慶は、彼女の膝をたてその中心に指を這わし軽く押してそれからすぐに手を引いた。





「景時。あなたは彼女を清めたとき、中までは洗っていませんね?」




「触ってないよ」



そんなことまでは、できなかった。




首を横に振ったオレに、弁慶は彼女の裾を直して布団に寝かしなおしながら、口の端に笑みをのせた。




「それでしたら、大丈夫です」



「え?」



「未遂ですよ。彼女は犯されてはいない。それどころか、きっといじられてもいないことでしょう。まだ固いつぼみでしたから」





「固い・・・・・・」



その意味するところを知って、大きく安堵のため息が漏れた。




「よ、かった・・・・・・何もなかったんだね」





その安らかな寝顔を眺め、ほっと息をつく。



彼女をその部屋に寝かせたまま縁側に出て、礼にと酒を振る舞った。












「しかし、嫌がる女性をよってたかって無理やり、とは。男の風上にもおけません。あそこをちょんぎってやりたくなりますね」




にっこりと微笑んでそう言った弁慶にひくりと頬が引きつった。



「弁慶・・・・・・弁慶がそう言うと、冗談に聞こえないよ〜」




「冗談なものですか。女性は美しく可愛らしいものだ。そして愛する男の腕で花開くもの・・・・・・快楽だけを貪ろうとするなど・・・・・・下衆ですよ」



鋭い目を遠くに向け吐き捨てた弁慶に苦笑いが漏れた。



女遊びとそれはまた別だから、と考えているのだろう。



自分も胸の内の吐き気を追い出す様に酒を喉に流し込み、空を見上げた。



一寸遅ければ。





彼女はきっと・・・・・・。





あの時馬を家に向かって走らせていれば、何かほかに気を取られていれば。

漆黒の空に響き渡った悲鳴には気づかなかったのかもしれない。



気づけたことに、自分自身安堵する。




続けて酒を流し込むオレを横目で見て、弁慶がふと笑みを作った。



「酒が弱い、なんて嘘をついて…けっこういける口じゃありませんか。景時」



やわらかなその物言いに一瞬心臓をわしづかみにされた気分に陥って、オレは苦笑した。



「・・・・・・自分の飲みたいように飲めないことが、嫌なんだよ。注がれちゃったら、やっぱり飲み干さないといけないでしょ」




「・・・・・・そう、かもしれませんね。まぁとにかく、彼女の心の看病はあなたに託します。朔殿は明日帰って来られるんですか?」




「いや、もう少しかかると思う。オレも行ければよかったんだけど、いつ戦が始まるかわからない状況だったからさ」




近くの寺に参拝に出かけている妹の姿を思い出し、知らぬうちに年頃の娘を邸に拾い入れた兄を怒るだろうと肩を落とした。





「そうですか……では、頑張ってくださいね」




「う、ん」




頷きながら、オレは何を頑張ればいいのか、その時真実理解はしていなかったんだ。



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