遙か四
□運命という名の引力
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「ん・・・・・・」
帰り道だった。
馬に乗ったままオレは耳に聞こえた音に首を傾げた。
「まさか幽霊とか・・・・・・じゃないよね〜」
自分で言いながら怖くなってしまって、はははと乾いた笑いを漏らす。
「勘弁してよ・・・・・・オレ、今日は家に一人なんだからさ〜…」
この辺りは夜は物騒だから人が出歩いているわけもない。
空に昇る月も満月にほど近く、明るい光を地に降り注いでいる。
だから大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら緩めていた馬の足を再度走らせようとしたその時。
『いやああああああ! 誰か助け……っ!』
明らかに若い女の声がした。
「!」
ばっと顔を上げ声の聞こえた方角を確かめながら、オレは馬の足を駆った。
物盗りか何かだろうか。
そう思いながら森の中に目を配るようにして騒がしい気配を探しながら馬を駆っていって、そして。
ならずものの男たちが何かに群がっているのを見つけた。
―――これだ!
「何をしている!?」
きつい声で誰何をしたその瞬間、邪魔が入るとも思っていなかっただろう男たちがびくりと震え一斉にこちらを振り向いた。
応戦しようという気を失せさせるため、銃を構えて眼差しきつくその者達を馬の上から見下ろして・・・・・・その中心にいた人物に目を見開いた。
「―――――」
虚ろな目をしてこちらを見上げる、若い、女。
胸元を晒され、足を開かれ、頬を腫らし、涙の後を残した美しく若い女。
何が行われていたかなど明白だった。
吐き気がする想いに囚われながら、きつい声のまま「その女からどけ」と言い放った。
男たちはオレの持つ銃を恐れたらしく、そろそろと彼女から距離を取った。
「オレは、軍奉行梶原平三景時。貴様らの狼藉、しかとこの目で……」
「た、すけ、て・・・・・・」
「!」
はっと声のした方を見ると、女は目から涙を流し虚ろな目に光を宿してオレを見ていた。
「に、逃げろ……っ!」
「ひぃ……っ!」
「待て……っ!」
隙をついて逃げ出した男たちの後を追おうとして、思いとどまった。
それよりも彼女を助けるのが先だから、と。
しかし、なんて声をかければいいのか……悲惨な状況にオレは馬から降りて彼女に近づいた。
月の光を背にして現れた男の人を虚ろな目で見上げ、私はその人が助けてくれるらしいと気づいてさらに涙をあふれさせた。
痛めつけられた体がぎしぎしと嫌な音を立てる。
とにかく足を閉じ、破られた服をかき合わせて胸元を隠すと、その人は私の傍らに膝をついた。
「・・・・・・」
気遣わしげな眼で見られ、私は自分がひどくみすぼらしく汚らしい存在になった気持ちになって、震える唇でこれだけはと彼に尋ねた。
「ここは・・・・・・ここは、どこなんです・・・・・・? ここ、は……」
「君……っ!」
焦った彼が差し伸べた手を見ながら、私はどうして地面が近くなっていくのだろう、と考えながら遠のく意識に目を閉じた。
2013/01/29