遙か四

□運命という名の引力
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奇跡という言葉があるのなら、私はあなたに出会えたことが奇跡だと思っています。













「はぁ…はぁ…は……っ!」





もつれそうになる足を必死に動かして前へ前へと走る。



背後が見えない恐怖は叫びそうになるほどだったけれど止まるわけにはいかなかった。





一体ここはどこなのだろう。



街並みを見たとき最初は田舎かなと思った。

どうして自分がここにいるのかはわからなかったけれど、田舎のどこかかなと。


田んぼと畦道と木と森と土壁と。



コンクリートや高いビルなんて見当たらない。



そんな場所で確実に私は浮いていて、会社帰りのスーツを身にまとったままぐるりとまわりを見回して妙な感覚に陥った。








でものんきに構えていられたのはそこまでだった。



気づけば汚らしい恰好をした男数人に距離を詰められ本能的に危険を察した足が走り出した。



ヒールでは走りづらくて脱いで走った。


とにかく逃げなければと思った。



カバンが重くて道の端に放り出した。


金が目当てならそのカバンに足を止めるだろう。



数人は足を止めカバンの中を改めるような気配を見せたが他の人たちは私を追いかけてきているようだった。



自分の荒い息とがさがさという葉擦れや衣擦れの音が耳に迫る。



逃げるという行為がここまで怖いことだとは思わなった。




怖い。



ひどく怖い。




泣きそうになりながら足を必死に動かす。


地面でこすれて足が痛い。



すりむけているのだろうと思って情けなさに本当に涙が溢れた。



誰か道行く人はいないのだろうか。




おまわりさんは。



人は。



誰か。





警察に。














けれど。















希望も虚しく。






左右に揺れて背中をかすめていた髪を指に絡め。




きつく引っ張られて。





私は後ろに引き倒されてしまった。




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