遙か四

□寒椿
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「君は椿のようだね」



私の長い髪を指先で弄び、酒にほんのり酔ったその男はそう嘯いた。





「椿ですか。これはまた・・・・・・」




馬鹿にしているのか、と鼻白んでいるとその男は意外そうな顔をしてくすりと笑った。




「おや…君もあの花を首から落ちるから縁起が悪いと嫌っている口かい? 私はあの花を潔いと思うがね」



「潔い、と?」



唄うように話す男の口調に興味をそそられて促す様に見ると、男は軽く肩を竦めて庭を見やった。

天から大粒の花弁雪(はなびらゆき)が舞い降りて庭を雪化粧で彩っている。
その白い雪の中から、赤い花が顔を覗かせているのを見つけた。




「この庭にも咲いていたのですね」



「知らなかったのかい?」



「ええ。……風情を重んじるより学問に精を出す大馬鹿娘ですから」



散々父親に嘆かれた台詞を口にすると、その男・・・・・・友雅様が私のうなじをさらうように引き寄せた。




「冬の寒さの中、それでも凛として景色を彩る美しい深紅の花である椿と君はよく似ているよ。椿は気品もあり、そして・・・・・・情熱も兼ね備えている。情熱と潔さの花・・・・・・これほど君に似合う花はない」



私の心をも絡め取るほどに静かな口調に確かな熱を潜ませて、友雅様はそう紡ぐと私をそっと横たえた。




「その気品ある花を・・・・・・私が手折っても?」



「お好きになさいませ。私は・・・・・・もうすでにあなたに心を手折られておりますから」



すっと体の力を抜くと、友雅様はおかしそうに喉の奥でくっと笑って・・・・・・戯れるように口づけた。





「許しを得たようだから……遠慮はしないよ、可愛い人」



2013/01/25

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