乙女ゲーム夢4
□想い瞬く
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次の日は仕事の都合でどうしても行くことが出来なくて、さらに次の日に俺が家に行くと彼女は台所で母さんに何か教わっていた。
「母さん」
「あら、進」
「進さん」
俺を見てぱっと笑みを浮かべるその少女になんとなくばつの悪い思いをした。
この子を家から追い出そうとしてたんだって。
「待ってて。今お茶を淹れるわ」
「文子さん、私が…」
「そう? じゃあ、お願いしようかしら。進と私とあなたの三人分」
「で、でも…」
ちら、と彼女が俺を見た。
気遣っているのだろう。もしかしたら昨日の俺と母さんの言い合いを聞かれていたのかもしれない。
「構いませんよ、同席していただいても。お茶菓子も、買ってきたんです」
ひょい、と手に持った箱を掲げて見せると彼女はぱっと顔を輝かせた。
「いいんですか?」
「ええ、どうぞ。ちゃんと三人分ありますから」
「わぁ……急いで淹れますねっ」
嬉しい、と丸わかりな顔でいそいそとお茶を沸かし始めた彼女に思わず吹き出した。
「ぷ……っ」
「笑わないの。さ、向こうに行きましょう?」
「ああ、うん」
頷いて台所から遠ざかりながら俺は一言だけ「どう?」と尋ねた。
「いい子よ。とてもいい子」
迷いなく返された答えに苦笑する。
「母さんがそう言うのなら、いいんだけど」
素直でない返答をしながらも、俺は自分の直感から彼女に悪意がないのはもうわかっていた。
本当に、記憶がないんだろうなって。
――――悪いことをしてしまったな。
まぁ、疑い深かった自覚があったからお茶菓子を買ってきたわけなんだけど。
あんなに喜んでもらえるなら、もっと買って来ればよかったかな。
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