乙女ゲーム夢4
□君のうた
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「・・・・・・」
こんな簡単な歌。
誰でも作れそうな歌だ。
トキヤはトキヤの歌を歌えばいい、などとうそぶいてもこの体たらく。
口だけの人間は嫌いだ、と辛辣な感情を抱きながら手に持った楽譜を破ろうと力を入れようとしたその瞬間、ひょいと取り上げられた。
「レン、返しなさい」
「嫌だよ。どうして破ろうと? パートナーが作ってくれた歌じゃないのか?」
「お、名無しの歌か? 俺結構好きだぜ。見せてくれよ」
レンと翔が寄ってたかって私の持っていた楽譜を見始める。
私はため息を押し殺し、言葉を繋いだ。
「私が歌うには簡単すぎる。誰にでも作れそうな歌だというのが私の感想ですよ」
腹立たしさを押し殺した私に、翔もレンも怪訝な顔をした。
「いい曲だぜ?」
「・・・・・・そうだね。簡単、か」
レンが何かを思案するように楽譜を見つめ、そしてふっと顔を上げると私をじっと見つめた。
「歌ってみなよ、イッチー」
「何故です? そんな簡単な…」
「いいから。早く」
有無を言わさない声に促されて嫌々楽譜に声を乗せる。
ピアノですら聞いたことのない曲だ。探りながら音を出し、声をのせて・・・・・・驚いた。
高音、低音の入りやすさ、伸びる長さ、ピッチ。全てがしっくりとはまる。
「・・・・・・?」
「…すげぇ、いい曲じゃん! なんていうか、トキヤらしい歌だよな」
「・・・・・・私らしい?」
「ああ。この歌はイッチーの声や歌のくせを熟知したうえでぎりぎりを見極めて作られている、紛れもなくイッチーのための歌だよ」
「だよな! 高音部も低音部も無理なく綺麗だったぜ」
レンと翔に太鼓判を押されたその曲。それを口の中で反芻して私はぐっと唇を噛んだ。
確かに・・・・・・シンプルだからこそ私の力量をぎりぎりで見極めた曲だ。
「・・・・・・」
――――――真剣でなかったのは私の方か。
自分のものさしでしか物事を計れず、結果彼女にひどい言葉を投げつけた。もう少し冷静に見ていたら・・・・・・ちゃんと歌っていたらすぐにでもわかったことなのに。
くるりと踵を返す。
プライドが邪魔をして謝らない方がよほど格好が悪い。
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