乙女ゲーム夢4
□やっと言える気持ち
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私に勇気をください。
あなたに告白する勇気を。
―――手術を受ける、勇気を。
「よう! 久し振りだな」
にこ、と笑いかけられて私は小さく笑った。
「翔くん! 久し振り」
隣の部屋に入院してた同い年の少年。
彼の方が早く退院してしまった。けれど完治したわけではなく、外国に手術を受けに行くのだと、そう言って・・・・・・。
「もう終わったの?」
「いんや、これから空港行くんだ。行く前にお前に会っておきたくってさ」
照れ臭そうに笑って翔くんは私から視線を逸らした。
「なんていうか、さ。帰ってきたらお前に言いたいことあるって言いに来たって言うか・・・・・・」
「・・・・・・」
「だからお前も手術受けてほしいなって言いに来たって言うか・・・」
「・・・・・・お母さんに頼まれた?」
「う・・・いや、まぁ、うん」
歯切れ悪くうなづいた翔くんに苦い笑みがこみ上げた。
「・・・・・・お母さんに言われたから来たんだ」
「・・・」
「いたっ!?」
「何拗ねてんだよ。言っとくけど、来るって先に言ったのはオレだからな! 来るって言ったからおばさんがオレに頼んだんだからな! 順番はき違えんなよ!」
「・・・・・・」
でこピンされた額を指でさする。
そんなに痛くはない。
むしろむっとした顔をして怒って私の勘違いを否定してくれた翔くんに心が何かを期待してときめいた。
「・・・・・・絶対、会いに来る。戻ってくるから、今度は外で会おうぜ。どっか遊びに行こう」
「翔く・・・」
「だから、お前も手術を受けろよ」
「……っ」
真正面から私を見る翔くんの目は静かだ。
静かで、強い。
「と・・・・・・悪い。俺そろそろ時間だ」
言いだすタイミングをずっと見計らってたんだろう。
時計を見て慌てはじめた翔くんに胸がざわざわした。
「やだ……っ」
「名無しさん?」
ベッドから手をのばしてぎゅううっと翔くんの胸元に抱き着く。
「やだ・・・・・・やだ……っ! もう二度と、会えないかもしれないじゃない……っ! そんなのやだ……っ! 行かないで……っ!!」
ぼろぼろとみっともなく涙がこぼれる。
それでも彼に縋りついて、行かないでと叫ぶ。
怖い。
手術で翔くんを失うのが怖い。
会えなくなるのが怖い。
・・・・・・自分が知らない間に自分が死んでしまうのが怖い。
でも、夜の病院で毎日たまらなく不安になる。
死ぬのは、怖いよ……っ!
だって死んじゃったら翔くんに会えなくなっちゃうのに……っ!
時間がないという翔くんに抱き着いて涙を流す。
そんな仕方のない私の頭を翔くんはそっと撫でた。
「仕方がない奴だな」
労わりを含んだ声に涙に濡れた目を瞬く。
翔くんはなだめるように私の背中に腕を回してぽんぽんと叩きながら言葉を続けた。
「このままでもさ、いいのかもしれないけど。でも病院にこのままい続けても俺もお前も寿命は延びないよ」
それは確かに真実で。
きゅっと目をつむって胸の痛みに耐える。
どちらにせよ、怖い。
このまま手術を受けないで死を待つことも。
手術を受けて知らない間に死んでしまうかもしれないことも。
「俺もお前も、簡単な手術じゃない。でも治療法がわかってない人もたくさんいる中で、成功率は低いけど生きる可能性のある俺達ってけっこう強運だよな」
笑ってそう言えるのは翔くんの強さだ。・・・・・・そんなところに、私は惹かれてる。
「名無しさん。絶対、また会おう。絶対だ」
「……っ」
太陽のようなその笑顔を泣きじゃくった顔で見つめる。
またこの笑顔に会いたい。
翔くんが言うように病院じゃなくて、外で。
「約束。指きりしよう」
差し出された小指に自分の小指を絡める。
・・・・・・小柄な翔くんだけど、手も背も私よりも大きい。
「・・・・・・手術になんか負けねぇ。病気になんか、絶対負けねぇ」
その力強い声にやっと背中を押してもらえる。
「・・・・・・生きて、会おうね。外で待ち合わせて、遊びに行こう」
「おう!」
半年後。
「名無しさん!」
私の名前を呼ぶ懐かしい声に笑顔で振り向く。
「翔くん!」
名前を呼べることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
頬を撫でる風と温かな日の光を感じながら腕をのばす。
「会いたかった……っ」
「俺も。あー、と、それでさ。俺手術に成功したらお前に言いたいことがあるって言っただろ?」
「……うん」
確かに言われた。
どきどきしながら翔くんを見上げると、真っ赤な顔をした翔くんが真剣な表情で私を見つめて。
「俺、お前のことさ・・・・・・」
告げられた気持ちに涙をにじませて私はこれまでで一番の微笑みを返した。
(やっと言えた好きだという言葉)
2013/03/21