乙女ゲーム夢4
□愛は不器用に
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幼い頃から、帝国のためにと努力を惜しまない勇様が好きだった。
結婚などしないと心に決めていることも知っていたけれど、玄一郎様が私を勇様の婚約者に仕立て上げたことには心の底から感謝した。
これでもう彼は自分のものだと。
そう、そんな風に思っていた。
それが愚かな自己満足とも知らず。
コンコン。
ノックの音がしてドアが開かれた。
部屋の中に入ってきた正様の姿に私は視線を伏せる。
「当主に聞いた。お前はそれでいいのか」
静かな声。
この人はいつだってそうだ。
決して見るからに優しそうではないくせに、自分を見つめなおせと静かに諭してくれる人。
本当はこの人だって十分優しい人だ。
きゅっと手を握る。
自分に拒否権はあっただろうか。もしあったとして、どうして自分はそれを主張しなかったのだろうか。
「・・・・・・私は、玄一郎様にとって駒なんです。財界とのつながりを強固にするための駒。そして都合よく私の実家は玄一郎様に弱みを握られている」
「・・・・・・」
「それでも、勇様の婚約者でいたいのだと主張できなかったのは勇様に幸せになってほしかったから」
「大佐の幸せだと?」
ぴくりと動いた正様の眉を見て、自分が顔を上げているのだと気づく。
そして頬を伝う熱くて冷たいものにも。
「・・・・・・勇様はきっとはるさんが好きなんです」
「・・・あの使用人か」
はぁ、とため息をつく正様にああやっぱり彼にも分かっているのだと知って胸がずきずきと痛む。
「私は勇様が好きです。だから勇様には幸せになってほしい。だから私は婚約者を辞める方がいいんです」
「そのあと押し付けられた私はどうする?」
「それは・・・」
「大佐に手は出されていないと聞いたが」
「勇様は、結婚するまで何もすることはないと言明されていました。だから・・・っ」
正様が突然私との距離を詰めて手首を掴んだ。
そのことにびくりと震えると、正様はぐっと眉間にしわを増やし・・・・・・。
「っ!?」
柔らかくて暖かいものが首筋に押し付けられた。
「・・・・・・私は婚前だろうがなんだろうが私のものならば手を出す。お前に手を出される覚悟はあるのか?」
間近で射すくめるように見つめる正様の視線を受けて泣きたくなる。
勇様に抱きしめられたかった。
勇様に口づけてほしかった。
でも。
「私は・・・・・・」
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