乙女ゲーム夢4
□愛しの婚約者
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「雅様、どなたか来られるんですか?」
「なっ!? なんだよ、なんで来るわけ!? ほっとけよ、バカ!」
「でもずっとそわそわしてらっしゃるので・・・」
「お前には関係ないだろ!? いいからさっさと仕事してれば……っ!」
顔をほんのり赤くしてぎゃんぎゃん言っていた雅様だったけど、車の音が近づいてくるのを聞いて、はっと顔を上げた。
一台の車が玄関先につけられて、その中から一人の女学生が姿を現した。
「雅さん! 出迎えに来てくれたんですか?」
嬉しそうに微笑んだ彼女に、雅様も笑わないものの嬉しそうな雰囲気で近づいて行った。
「・・・久し振り。まぁ、たまたまね」
肩を竦めた雅様に思わず(ゆうに30分は待ってたと思うんだけど)と突っ込みを入れたくなって慌てて口を閉ざした。
そんなこと言ったら本気で逆鱗に触れてしまいそうだ。
「いらっしゃいませ」
頭を下げると「お茶持ってきて。僕の部屋」とそれだけを告げて・・・・・・雅様は彼女に手を差し出した。
「ん・・・」
「いつもありがとうございます。お優しいのですね」
「べ、別に。君がこけたら困るし、それだけっ」
「嬉しいです」
「ふ、ふんっ」
照れた表情。
赤く染まった頬。
そんなに刺々しくない言葉。
それらは普段の雅様からは考えられないもので、内心驚きながら二人が立ち去るのを眺めてしまった。
「ふぁー・・・・・・珍しい・・・・・・」
彼女は誰、という疑問に答えてくれたのは千富さんだった。
「雅様の婚約者の名無し名無しさん様です。雅様はあの方にだけお優しいのですよ」
(愛しの婚約者)
2013/03/01