乙女ゲーム夢4
□観念
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指を絡め取られてドキリと胸が騒いだ。
「お前はいつになれば俺の気持ちの返事をするのだ?」
その問いに関して、私は正確な答えを持ち合わせていなかった。
色よい返事をするには自分の着ているエプロンドレスが足枷になり、謝罪の言葉を口にするには自分の気持ちが足枷になり。
結局どうすればいいのか分からないまま私は口を真一文字に引き結ぶ。
切ないほどに私を見つめる男の目から視線を逸らす。
彼は・・・・・・私の主なのだから。
「まただんまりか……俺はお前が好きだ。お前が欲しい。そう、再三言っている」
真正面から私を捉え、痛いほど見つめるゆるぎない瞳に胸が揺れる。
その想いにためらいなく応えることが出来るのならばどれほど嬉しいことか。
「私はただの専属使用人です」
何度繰り返すのか、その言葉を。
口にするたびに心が引きちぎられそうになるというのに。
「そうだ。俺が専属にした。お前を・・・・・・俺のものにしたくて」
顔の横で三つ編みにした髪をすくい上げられてその先に口づけて。
髪に神経なんて通っていないはずなのに、私を射すくめる瞳に胸が高鳴った。
「他の者の給仕などしなくていい。お前は俺を見て俺だけの世話をすればいい」
いっそ感情のまま怒鳴られた方がマシだった。
『何故俺の気持ちに頷かんのだ!?』と言われた方がまだ・・・・・・こうやってじりじりと口説かれる方がよほど追いつめられる。
勇様が私を大切に扱うそぶりをするたびに、引力のように彼に惹かれていく自分を感じて・・・・・・。
この言葉を口にするのはもう負けなんだ。そう思いながらも・・・・・・無理だった。
「旦那様がお許しになりません…」
「そんなもの、俺が何とかして見せよう」
「・・・・・・使用人にたぶらかされたと噂が立ちます」
「俺がたぶらかしたのだと言って回ろう。そもそも互いに惹かれあっただけだ、周りにとやかく言わせるものか」
あとは、あとは・・・・・・言い訳を考える私との距離を徐々に徐々に縮めて勇様が私のアゴを掴むと上からじっと見下ろした。
「・・・・・・もう、黙れ」
「いさ・・・・・・」
塞ぐように重ねられた唇の熱は私の知らないもので。
これから先の茨の道を考えるよりも、今はこの甘さに酔いしれようと目をつむった。
2013/01/25