乙女ゲーム夢4

□その理由
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 何度も何度も聞かされた。
 彼の心を、彼の人生を、救ってくれた少女の話。
 私はあなたになりたい……。
 白い手巾を彼にあげたあなたになりたい。






















「今帰ったぞ!」



「お帰りなさい、旦那様」



お出迎えに出て行くと、純一さんが私のわきの下に手を入れてひょいっと私を抱き上げた。



「だ、旦那様……っ!」



抗議するように声をあげると、純一さんが豪快に笑って私を見上げた。



「旦那様なんて呼ぶからだ。ほら、ちゃんと呼んでみろ」



ん? と首を傾げられて私は顔を赤らめながら小さな声で「純一さん」と呟いた。



「それでいい。全く、なんだって突然旦那様なんて呼び始めたのだろうなぁ」



つまらなさそうに言って周りのメイドたちを見やった純一さんの洋服をつんっと引っ張る。




「あの、だってもう私も15なのですもの。いつまでも子供のようにお父様とは呼べません」



「お父様と呼べとは言っていないだろう」


不愉快そうに眉をひそめた純一さんから視線を逸らす。



「同じことです。私は孤児院で旦那様に育ててもらったのですから」


「・・・・・・他にそう呼べる立場があるということには気づかんのだなぁ」



「え?」


「・・・・・・いや、なんでもない! 先に風呂に入る。食事はそれからだ」



「あ、はい。かしこまりました」


「・・・・・・そうだな。お前はついてこい」



「私ですか?」



きょとんとして首を傾げると純一さんがしっかりと頷いて私の手を引いた。



「名無しさんだ」








純一さんに手を引かれながら背中にメイドたちの嫉妬の視線を感じる。








どうしてあんな子が、と。



孤児院にいた娘のくせに、と。


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