乙女ゲーム夢
□ありがとう
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「新八、さん?」
「おう」
笑ってくれるその顔が好きだ。
すごく、すごく、好きだ。
「……」
「んな顔するなよー……名無しさん?」
私をなだめるように顔を覗き込もうとする新八さんと目を合わさないようにして、親指の付け根に酷い傷を負った新八さんの指に処置をほどこしていく。
痛々しい傷……ぐっと奥歯を噛みしめていないと泣いてしまいそうだ。戦わないでなんて言えない。ケガしないでとも言えない。
でも、ただ、いってらっしゃいって……それだけを言うことがどれほど辛いのか……戦ってる人たちが一番辛いのはわかってるんだけど。
「なー、顔、見せろよ」
治療を終えてふいと顔を逸らす。
私だって新八さんの顔が見たかったけど、今見てしまうと本当に泣いてしまいそうだった。
医療用具が入った箱を持ち上げて新八さんから離れようとしたんだけど……。
「っ!」
ぐいっと引き寄せられて、がっしりとした新八さんの体に抱きしめられる。肩口に押し当てられた新八さんの頭にそっと手をのばすと、小さな小さな声でぽつりとつぶやいた。
「ケガしたやつ、いっぱい出た。平助や総司だって……」
「!」
「……死んだ奴も、いる……」
「新八さん……」
「くそ……っ」
……悔しいんだ。
悲しくて悔しくてやりきれないんだ。
大きな背中に腕をまわして抱きしめる。
「……お前は、生きてるか?」
「うん。……生きてるよ」
ぎゅっと私を抱きしめる腕が強くなる。
「生きて私のところに戻って来てくれて、ありがとう……」
2010/07/07