乙女ゲーム夢
□未来へ
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「んー」
雑誌を片手に、服が欲しいなぁ、と思って見ているとめくったページに乗っていたその商品に目を奪われた。
(お給料三カ月分とかってほんとなのかな?)
自分には縁がないかもね、なんて思っていたそれにものすごく目をひかれてしまって、自分でもすこしそういうことを意識しているんだなと自覚した。
それを押し隠すようにあわててページをめくると、後ろから手が伸びてきた。
「!」
「なにを見てるんだ?」
座っている後ろから抱き抱えるように包まれて、うれしいんだけど少し焦る。
(なに見てたか気付かれなかったかな?)
「レ……秀臣さん、仕事は終わったの?」
「ああ。片付けてきた」
肩にあごをのせて私の手元をのぞきこむ秀臣さんに(なついたなあ)と思う。人相手になついたなんて失礼だしおかしいかもしれないけど、秀臣さんは本当に気まぐれな猫みたいだから。
「服をね、見てたの。新しいのがほしいな、と思って」
「……買ってあげようか」
「えぇ!? い、いいよ! 自分で買うから!」
「……いらないのか?」
(……なんで捨てられた猫みたいな顔するのよっ!)
悪いことをしている気分になってしまう。
「だって……悪いし」
「俺は君にかなりお金を使わせていたと思うんだが……少しぐらい俺に甘えてくれてもいいんじゃないか?」
「んー、気持ちは嬉しいよ? すごく。でも私たち、いまはホストとお客様の関係じゃないよ?」
「……恋人だな」
「うん。だから、ええとイベントごとじゃないときにそういうのはなんだか変に感じるかな? あ、だからってイベント事のときになにかがほしいって言ってるわけじゃないからね?」
「なるほどな」
納得してくれたのかそうでないのか、秀臣さんはうなづいてくれた。
「……そうだ。明日は何か用事があるか?」
「え? なにもないけど……?」
「そうか。だったら食事に行こう」
「? う、うん? わかった……?」
(でも明日は木曜日だよ?)
ふつうのデートなのかな、と思ってなにも言わずに、私は背中を秀臣さんにあずけた。
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