乙女ゲーム夢

□幸せをあなたといっしょに
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「足りない……」









「え?」



 白いスーツを着た隆治さんを見ながら私は首をひねった。












 だって、なにか足りない。隆治さんに違和感を感じて頭のてっぺんから足の先までを見て、でもなんだかよくわからなくって結局あきらめた。



「なにが足りないんだ?」



 隆治さんまで首をかしげながら、彼はくせのようにたばこに手をのばした。それをぱしりとはたき落とす。





「今日はダメ!」





「あ、そうか……悪い」






「クセになっちゃってるね。
 ……って、あぁ!」





「っ! なんだ、さっきから? どうした」










「ひ、ひげがない!」









 はしたなくも隆治さんの顔を指さして叫んでしまった。




 それを聞いた隆治さんが納得したように「ああ」と笑って自分のあごをさすった。






「剃ったよ。今日ぐらいは、なぁ?」





「そっか……そうだよねー」






 もう一度まじまじと隆治さんの顔を見る。
 なんだかパーツを一つつけ忘れてるみたいなふしぎな感じなんだけど、でもやっぱりその方が幾分若く見えた。




「あ、いま若く見えるとか思っただろ?」


「そ、そんなことないよ?」


「そうか?」



 不服そうにそう言って、隆治さんがちらりと時計を見た。





「そろそろだな」



「ええ、……っ! もう、口紅がとれるじゃない!」




「後で取れるんだからいつでもいっしょだろ?」





「じゃなくて! キレイに臨みたいじゃない! 一生に一度のことなんだから」




「……いつでもキレイだぞ?」





「そんなお世辞には乗りません!」










「お時間です」


「はい」


「わかりました」



 かけられた声に二人で返事をして、目を合わせてくすりと笑う。



「お時間ですよ?」



「ああ、お時間だな」
 










「では、参りましょうか?」



 芝居がかった様子で腕を突きだされて私はくすくす笑いながらその腕に自分の手を添えた。







「柊さんが作ってくれたらしいよ?」


 そう言って自分の手元と頭の上を指さすと、隆治さんはなんだかちょっと複雑そうな顔をした。





「祝ってくれてるのは嬉しいが……あなたを飾っていると思うと複雑だな」





「そう? 私はすごくキレイで大満足! 投げるのが待ち遠しい」




「……憧れてたんだろ?」





「そうなの! だって……投げてる時が一番幸せそうでしょ?」





「それは聞き捨てならないな。俺とキスするときが一番幸せじゃないのか?」





「それは……それ、これはこれよ」




「まったく、現金なお嬢さんだ」




「ちがうわよ」



「なにがだい?」












「今日からは奥様になるんだから」












 にこっと笑って見上げると、隆治さんはすこしおどろいて、でもものすごく幸せそうに笑ってくれた。






「そうだな。俺の、奥様だ」


「ふふ、行きましょう。みんな待ってる」


「ああ」


10/03/08
 

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