乙女ゲーム夢

□ただのバカ
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「え?」


「!? 名無しさん、なぜここに!?」


 お互いにびっくりして目を合わせあう。

 だってほんとにびっくりだ。まさかこんなところでこんな人に会うだなんて。

 というか、まずい。なんというかいろんな意味でまずい。

「……店長、さきに卓にご案内した方が」

「ああ、ええ。そうですね。そちらのお嬢様は卓の方へ。あなたはこちらに」














「……」

「……」

 惣一郎おじさまから怒りのオーラが漂ってきて、私だって怒りたいのに、と思うけど経験上ここで下手にしゃべったら余計に怒られるのを知っているから私はぐっと黙り込んだ。




「ここは、ホストクラブです」


「……知ってます」


「君みたいな子供が来る場所ではありませんよ」

「! 私もう21だよ!」



「だからって、自分で働いたお金、というわけではないでしょう?」



「……」



 ごもっともで。




「……はぁ。とりあえず今日はいいでしょう。仕方ありませんからね。帰りも私が送りますからラストまでいてください」


「……いいの?」

「ええ。ですが、卓につくのは私です」


「え」

 それってどうなのかな?


 小首をかしげておじさまを見ると、彼はなぜか驚愕に目を見開いて口元を押さえ、よろめいた。


「お、おじさまっ?」


 どこか具合でも、と聞こうとした私は次に聞こえたひと言にげんなりした。










「なんっってかわいいんでしょう……!!」














「……」









 
「いくつになってもあなたはいつまでも私の天使のままですねえ……!」




あ。






 どこか恍惚としたおじさまを、いまバックヤードの扉を開けて入ってきたメガネをかけた男性がじっと見つめて、何事もなかったように去って行った。……私にかわいそうなものを見る目を向けて。









 うん、できたら助けてほしかったです。







「……おじさま、私、今日はバックヤードにいるので……」

 この状態で出すわけにはいかないよね。

 なんていうか……おじさまの人生に関わる気がする。



 ああ、きっとこの人いつもこんなんじゃないんだろうなぁ……。


 黙ってたら……かっこいいのに。


 あ、ちがうか。私が関わらなかったらかっこいいのに。


 ビデオとか雑誌とか、記録物で見たおじさまは本当にかっこいいのに……。

 なんで私といるとこんなのなんだろうなぁ。






「あ、私としたことが、写真を撮るのを忘れていました! さぁ、名無しさん! もう一度!」






「しませんからね」   





        
 この状態でフロアにでちゃったら……。


 ただの姪バカ認定される? というかただの変態認定されちゃうよね。


 いつもの(私と関わってない)おじさまのかっこよさをぶち壊すのは嫌だもんね。我慢しよ。







「……ところで」


「なんですか?」


「おじさま、どうしてホストクラブなんてしてるんですか」


「……まぁ、いろいろとありましてねえ。大人の事情、というやつですよ」


「……もう大人です」






「なにを言うんですか! まだまだあなたはかわいらしい私の名無しさんですよ!」




 ……私のってなんだ、私のって。



「ああ、そうだ。 いまから服を買いに行きましょうか! 久々に私が買ってあげますよ!」







「……べつにいい」



 ホストが貢いでどうするんだろ?



 あー、来るところ間違えちゃったぁ……。
 スイッチが入ると止まらない惣一郎おじさまがおさまるのを、私はうんざり待ちながら夜を明かしたのだった。



2010/03/06
 
 

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