乙女ゲーム夢
□言葉よりも雄弁な
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「連れてって」
「しかし……」
困惑した表情の天霧さんを捕まえて私は長身の彼をにらみ上げた。
「……千鶴ちゃんを見てみたいの」
「……あなたは」
天霧さんは言い淀む。なにを言おうとしているのか。
彼女に会っても平気なのか、とか? それとも千景が彼女に会っているのが平気なのか?
「……連れてってよ」
仕方ない、とでも言いたそうに天霧さんはため息をついた。
「汚らわしいまがい物を使う愚かな人間ども、番犬がいくらいようとも我が妻を守れるはずがないだろう? 塵は塵らしく、群れをなししっぽを巻いて逃げるがいい!!」
遠くで聞こえた千景の声。
「……あれひどくない?」
俺様大王だとは思ってたけどまさかこれほどなんて。
「……」
天霧さんは答えずに、いまだに私をこのまま連れて行っていいのか迷っているみたい。でもここまで連れてきてくれたなら私は放っておかれても勝手に千景の元に行く。……千鶴ちゃんを妻と呼ぶ彼の元に。
「ふははははは! 無様だな、哀れな人間ども! 虫けら以下の下等な生き物が! 俺の前に立ちふさがることすら愚かしい!」
「それ、私も入るんだけど」
「!?」
私が上げた声に、千景がぎょっと私を振り向いた。新選組の人たちも新手かとこちらを睨みつける。でもそれよりも呆気にとられた千景の顔がおかしかった。
「……ひどいこと言わないの」
「……なぜ、ここにいる。天霧! なぜ連れてきた!?」
呆然としていた千景の顔が激高した。新選組よりも天霧さんに斬りかかろうとするその姿に私はあわてて声を上げる。
「私が連れてきてって頼んだんだよ!」
「……」
不可解そうに千景は顔をしかめた。それを見ながら私は彼に相対する新選組の人たちに目を向ける。正しくは、その中にいる浮いた存在を。
あれ、男の子の格好してるけど女の子だよね、ぜったいに。
私も似たような格好をしているのだけれど。
みんなに見られている中、私はすたすたと新選組の方に歩み寄った。
警戒されているのを感じて、すこし立ち止まる。
「千景、私これからちょっとの間新選組でお世話になるから」
自分勝手だけど、彼女を見たときに「ああこの子なら」って興味がわいた。話してみたい。どんな子なのか知ってみたい。
「……なんだと? おい、女……鬼の仲間なんだろうが? 勝手に決めて進めてるんじゃねぇよ!」
……キレイな顔をした男の人が不機嫌にそう怒鳴った。
「……いったい何を言っている?」
彼に負けず劣らず不機嫌な声が後ろから追いかけてきた。きっと彼の側にいたら私は引きとめられていたんだろうけど、この緊迫感の中で動くのをためらっているらしい。……多分、私が巻き込まれるのを懸念して。
「……私、鬼じゃないですし彼女に危害は加えません。ただ」
話してみたいだけ。
それでも警戒を解いてくれない新選組に、私はひとつ息をついて、護衛のためにと腰に差した刀を抜いて……自分の腕をそれと分かるように思い切り斬りつけた。
「っ」
「! なにをしている!?」
千景が怒る声が聞こえたけど、私は血を滴らせるその腕を高く上げた。血は止まることなくあふれ続ける。
「……傷、ふさがらないでしょう? それとももっとひどい傷つけた方がわかりますか?」
それはちょっと勘弁だったりするんだけど……痛いし。
「やめろ! ……俺の許可なくそれ以上その体に傷をつけることは許さんぞ!」
「大丈夫だよ、これくらいじゃ人間死なないよ?」
「……」
千景は苦々しげに顔をしかめた。
「来い!」
「名無しさん、私はこんなことのために連れてきたわけではない」
「……ごめんね、天霧さん」
「……貴様、どこまでも俺を無視するつもりか」
「……いまはなにを言われても帰らないよ」
にらみ合う。
千景の目はそれだけで私を殺せてしまえそうなほどだったけど、やがて機嫌悪く刀をおさめた。
「……おい、貴様ら、その女を預けておく。……手を出したら承知せんぞ……二目と見られぬように切り刻んでやる……」
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