乙女ゲーム夢

□征服欲という……
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広い背中で艶やかな黒髪がさらりと揺れる。
















「……」



 そのキレイさ加減に、思わず手をのばす。





「! ……どうした」





「やぁ。キレイだな、と」


 ごまかすように笑って、その髪を手の中で弄ぶ。

 枝毛なんか見当たらないし。痛んで色が薄くなってるところもない。







「……歳さん、はげる心配なさそうですよね」


「!? ……そりゃ、褒められたのか?」


「もちろんです。いやですよ、私。はげた歳さんなんて」



「……ひでぇな。
はげたら俺はお払い箱か?」


「ふふ、わかりませんよ? はげた歳さんに惚れ直してはげフェチになってたりして」








「……そりゃつまり俺のことが好きでたまんねぇってことか?」







 にや、と笑う歳さんに私も余裕で返した。



「ええ、すごく好きですよ。きっと歳さんが考えてるよりもずっと」


「……」


「……」
 お、照れてる照れてる。








 私は膝立ちして歳さんの頭のうしろに手をのばすと髪を結っている紐を解いた。






「っ、なんだ。誘ってんのか?」






「んー、それでもいいけど。髪ほどいた歳さんを見れるのは私だけでしょ? それがうれしいなぁ、って思ったらほどきたくなったの」






「……お前なぁ」





 ぐっと腰を引き寄せられて、そのまま畳の上に押し倒される。



 さらりと私の顔を歳さんの髪がくすぐった。


 上等な絹糸のようなその髪を、自分のものだと思うと胸がぎゅっと締めつけられたように愛しくなる。


「……知らないでしょ? 私はあなたが私だけのものだと思うとこれ以上なく嬉しくなるし、あなたのことを私だけのものにしたいと思って……めちゃくちゃに壊したくもなる」





 見上げてそう言うと、おどろいた顔をする歳さんをぐっと掴んだ。




 そのまま勢いをつけて上下をひっくり返す。




 ……今度は私が歳さんを押し倒していた。
 畳の上に広がる黒髪に、ふしぎな満足感が私を襲った。




「……今日は、どうかしたのか」





 困ったように笑って下から私を見上げる愛しい人にも、征服欲が満たされる感じがした。





「……好き」

「……」

「すごく好きなの」




 襲いかかるように上から歳さんに口づける。


 ひそやかな吐息を感じながら、男性にしてはやわらかい唇をはむようにしてついばんだ。されるがままに、したいようにさせてくれる歳さんに愛しさが募る。……いま私は、この人を好きなようにしているんだ。



 足の間にはさんだ胴体にはしなやかについた筋肉の硬さがあって、つかんで畳にぬいつけた手首は私のものと比べ物にならないぐらいたくましくて。





「……こんな格好、あいつらに見られたら笑われるな」




 そう言いながらも歳さんは私を押しのけるようなことはしない。



「……俺は乗られる趣味はねぇんだが……お前になら上に乗られてもいいかもな」



「新たな一面発見?」


 からかうように聞くと、そうかもな、なんて笑みが返ってきた。



 ……そうやってやわらかい笑みを見せてくれるあなたがなによりも愛しい。






「……愛してる、歳さん」



「俺も……愛してるぜ」









 愛をささやき合って、私たちはまたどちらからともなく唇をかわした。







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