乙女ゲーム夢

□嫉妬のけんか
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「……なんて顔してるんですか」

 むぅっと口をとがらせた表情をしているのを見て、私は呆れてしまった。















「烝さん」


「なんでもない」


 不機嫌そうな顔のまま返されてもなぁ。








「また沖田さんと喧嘩したの?」


「!」



 やっぱり……。


「嫌いなのか好きなのかよくわかんないよね。烝さんって」



「……だれがだれを好きだって?」




「……そんなに嫌がらなくても」



 なんでこんなに犬猿の仲なんだろう?








「……君は」







「え?」






「君は沖田さんの方がいいんじゃないか? ……好きだと言ったんだろう」



「は?」


 身に覚えがない。


 首をかしげてわからないと意思表示したけど烝さんは視線を合わせてくれなかった。



 好き? 


 私が沖田さんを?




 嫌いではないけれど、好きでもない。特別な意味が入るのならなおさら。私は、いま目の前で機嫌が悪そうにしている烝さんが好きなのだから。たしかに自分達は恋人同士のはずなのに、なぜこんなことを言われているんだろう?








「あ」








 記憶の波を漂っていた私は行きあった答えにぽんと手を打った。



「烝さん」


「……」





「……私、猫が好き、って言ったんだよ?」



「……猫?」

「うん、猫」








 屯所の中に一匹の猫が入り込んでいて、その子と遊んでいた沖田さんに仲間に入れてもらったのだ。その時に、「私、すごく好きなんです」と言った気はする。でも誤解を与えるような言い方はしなかったはず。ということは。





「……!」




「からかわれたんだね、まったくもう」




「なんてことだ……俺が、あの人に不覚を取るなんて……」






 がっくりと肩を落としてうなだれている烝さんがすこしかわいくて私は小さく笑ってしまった。




「そんなに落ち込まないでよ」





「……あの人に、からかわれるなんて……」





 沖田さんは近藤さんが好きすぎて、烝さんは土方さんが好きすぎてなにかにつけて衝突するんだよね。でもそもそもあの沖田さんの人を食ったような性格と烝さんのまじめさが相いれないのか折り合いがつかないことが多い。……すごく悔しそうだし。





「……でもそれだけ私のことで動揺してくれたんだ?」




「っ!」



 びくりと肩を揺らして、烝さんはむっとした顔で私を見た。









「……悪いか」



「!」





 今度はこっちがびっくりした。



 否定するかと思ったのに。



 ……普段からあんまり甘い言葉を言う方じゃないんだけど、こういう風に肯定されるとなんだか愛しくなってしまう。









「……俺は、言葉にして伝えることは得意ではないからな。君が離れていくのは仕方ないかと思った。でも、それ以上にいやだった……」










「……私が好きなのは烝さんだけだよ」


「……」


「不安なら、なんどでも言ってあげる。私は烝さんが一番大好き」
「……俺も」



 烝さんは口の中でなんどか言い淀んで、でもきっと私の顔を見るとはっきり言い放った。










「俺も、君のことが好きだ」









「……ありがとう」


 伝えてくれる気持ちがうれしくて微笑むと、彼もほっとしたように頬をゆるめた。












「……ずっと、俺の、俺だけの……側にいてほしい」
 


2010/03/03
 

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