乙女ゲーム夢
□口は災いのもと
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「……土方さんの顔見てたらはったおしたくなりません?」
私がぽつりともらした言葉にみんながぎょっとこちらを見た。
なんだよぅ、いきなり見られたら怖いじゃんか!
「……それは、副長に敵意ありという心の現れか?」
怪訝そうに斎藤さんに聞きかえされて私はぶんぶんと首を横にふった。
「ちがいますよ! なんていうか……キレイすぎて腹が立つって言うか……なんていうか。とにかく見てたらはり倒したくなるんですよ!」
「……なに言ってんだ?」
左之さんが呆れたようにため息をついた。
バカだなぁ、なんて思われてそうで心外だ! みんなは思わないわけ!? ……ってみんなも十分キレイな顔してたよね。
「そもそも、土方さんだけ比率がおかしいと思いませんか?」
「比率ってなんのことだよ?」
今度は平助くんが説明しろと言いたそうな顔をする。
「あのですね、みなさんけっこうごつい感じじゃないですか? 左之さんや新八さんは特に」
顔もキレイなんだけど、でもキレイっていうよりもかっこいい感じ。沖田さんや斎藤さんだってそうだし、平助くんはちっさい感じがするからさほど問題じゃない
でも!
「土方さんってそんなに背が低いわけでもないですし、筋肉だってついててごつい感じなはずなんですよ。鬼の副長なんて言われてるのに見た目はそんなに見るからに怖そうじゃないじゃないですか?」
「……すげぇ、それ言えるのってお前だからだと思うぜ?」
うひゃー、と言いながら平助くんがすこし心配そうに障子をちらりと見た。土方さんがどこかで聞き耳をたててないか気にしたんだろうけど、土方さんはいま外に出てて屯所にいないもんね! さっき出て行くの見たもの!
「たおやかっていうか」
「……お前そりゃ女性に使う言葉だろうが」
「だって女装したらすごく似合いそうじゃないですか?」
傾城の美女にだってなれるよ! すこし声が低すぎるかもだけどさ! 高い声だしてもらえば大丈夫!
「言ってろ……」
「左之さん!
私のことバカにしてるでしょ!?」
「……バカだろ」
「なっ! ひどい! だってみんな思わないんですか!? 土方さんだけ一人なんだかキレイで、背も高く見えなくて、男らしいんだけど美人で」
「……キレイと美人は同義語だと思うが」
冷静なつっこみが斎藤さんから入ったけど無視!
「だーかーらー! 土方さんは新選組の姫的立場(姫ポジション!)だと思うんです!」
こぶしを握って力説したと同時に背後の障子がすっと開いた。
「……ほぅ?」
「っ!」
聞きなれた低い声に、喉の奥がぎゅっと音をならした。
な、なんで……?
なんでここにいるの!?
こわくて後ろが振り向けない……!
「その、姫的立場とやら詳しく聞かせてもらおうか」
「!!?」
「ああ、なんならはったおしてくれても構わねぇぜ?」
ぜ、ぜんぶ聞かれてる……!
というかみんななんで教えてくれなかったの!!?ぜったい斎藤さんと左之さんは気付いてた!土方さんいるの気づいてたはずなのに!
「やだー! たーすーけーてーくーだーさーいー!!」
叫ぶもむなしく、私は首根っこを持たれてずるずると土方さんの部屋まで引きずられて行ってしまった。
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