乙女ゲーム夢

□あなたの力に
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「すみません……」





 私はうなだれて謝った。止めたいと思うのに手からは力が失われた。




「本当に……」




「!?」



 震える手が、私をその両腕の中に包み込んだ。










「……君の血を、飲むわけにはいかないでしょう……? 君を傷つけるなんてできるわけがない!」






「えっ」


 抱き締める腕の力が増して、私は敬助さんの荒い息とはやく打つ鼓動を感じた。


「……雪村君は鬼だ。彼女には申し訳ないとは思うがそれでも私たちが強くなるためなら彼女に協力してもらうほかないと思っています」





「……でも、血ぐらい!」






「……私に、君を傷つけろというんですか? 君はただの人間だ。ケガをしても治るのに時間がかかる……ぐぁっ」





「敬助さん!」



 私は敬助さんから体を離すと腰から刀を抜いた。



「な、なにを……っ」



 それで自分の指先を切る。ぴりりとした感触とともに血がぷくりと浮いた。



「……敬助さん」



「なんてことを……!」



「……舐めて」







 敬助さんはためらうようにじっと荒い息の元私の指を見つめている。……こうまでしても、頼ってくれないのかとかなしくなった。


「……ちゅ」






 自分の指を自分の口にふくむ。ちゅっと吸って、そのまま……



「!」


「ふぅ……っ、んっ」



 敬助さんの唇に口づけて鉄の味のする舌でその口をこじあけた。おびえるようにすくんでいる敬助さんの舌に、絡ませるようにして口づける……




「ふ……」









「……バカなことをする」




 白い髪も赤い目も、いつもの敬助さんに戻った。




 よかった……!





「いいんです、バカですから」


 バカでも。


 敬助さんが苦しまないようになるならそれでいい。


 敬助さんはかなしそうな顔で私の手をそっと取った。そしてまだすこし血の浮いている指先を口の中に含む。



「っ」



 ざらりとした舌が指先を這う感触に肩がぴくりと揺れた。





「……私のために傷なんてつけないでください、と言いたいところなんですが」




「?」


「……私のためについた傷だと思うと、すこしいとしく感じるのはなぜでしょうね」






「敬助、さん……」

「……私の力になれていない、なんて考えていたんですか?」

「だって……私は、ただの人ですから」









「……私はただの人である君のことがこんなに大切なのに? 私のことだけを見て、考えて、私だけの側にいてほしい。いっそのこと監禁でもしたいものですが」






「え!?」





「……そうしてしまわないのも、また君を愛しているからでしょうね」







「……ずるい」

「君こそ。どれほど私を夢中にさせているかわかっているんですか? ……それこそ、この新選組とはかりにかけてもおしくないほど、ね」



「……私も、大好きです」


 ずっとずっとあなたといたい。



 前以上に冷酷になってしまったような気もするけれど、戦えないと自嘲してふさぎこむばかりだった頃よりはどれほどマシだろうか。





「私は、いつも君の存在に救われているのですよ」




 そう、言ってくれるのがうれしくて。


 この人はウソも言うけれどこれはウソじゃないのだろうとそう思って。












 からめられた指先に、口づけた。


 もしこの先、あなたが血に狂うことになったとしても、私はずっとあなたの側にいる……。




2010/03/03
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