乙女ゲーム夢

□あなたの力に
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「……」


 ふと目が覚めると枕元が明るくて、私は布団から半分身を起こした。











「ああ……すみません。起してしまいましたか?」








「……敬助さん」

「おはよう」
 






「本を読んでいたんです」


「……私の部屋で?」


 首をかしげると、するりと頬をなでられた。




「ええ。
 昼の間は共にいられませんから……」


 ふ、とやさしく微笑まれる。


「!」

 かぁ、っと頬が熱くなった。

 それって、いっしょにいたいと思ってくれてるってこと?

 こういうところは変わらない。





「ですが起こしてしまったのは申し訳ないことをしましたね」


「いえ! ……私も、いっしょにいたいですから」




「……それはよかった。








    ……ぐぅっ!」






 嬉しそうに微笑んでくれた敬助さん。でも、その表情がとつぜん苦しげなものに変わった。





「敬助さん? 敬助さん!」




 もしかして……!




「血が……ほしいの?」



 問いかけると敬助さんは顔色を変えた。


 そのままふらりと部屋から出て行こうとする。







「っ、待って!」


 すがりつくようにして敬助さんに抱きついた。

「……離して、ください……!」

「いやです! 私がこの手を離したらあなたはだれのところに行くんですか?」





「……」





 この間の夜に怒った事件。……土方さんから聞いた話だけど、敬助さんは千鶴ちゃんの血を欲っして襲おうとしたらしい。隊規があるから途中でやめたらしいけど……。











「……この状態で、千鶴ちゃんのところに行くつもりですか?」


 腕の中でびくりと震えた体に胸が苦しくなった。










 ……なんで!





「私じゃ、ダメなんですか!?」






「!?」

「……鬼である千鶴ちゃんの血じゃないとダメなんですか……!」




 苦しい。




 こんなに……こんなに好きなのに、敬助さんはどこかちがう視線で千鶴ちゃんのことを見ている。私には向けてくれない感情を彼女に向けている。千鶴ちゃんのことは好き。すごく好き。素直で、でもどこかさみしそうな顔をしている彼女が好き。そこに鬼だとか人間だとかそういったことは考えていなくって。



 でも。


 でも……!


「君は……」









「私じゃ、あなたの力になれないんですか……?」










 前から冷たい人だった。

 頭のいい人だった。



 他人に見せる顔と冷たい顔、そして自分の生きる道に熱い顔。すべてを知った時、とてつもなく彼のことを好きだとそう思った。



 やさしくて、でもすごく意地悪で、ひどい人で……それでもやっぱりやさしい人。



 彼の心は私を向いてくれたはずだった。それなのに、その気持ちがみえない時がある。感じられない時がある。









「……君は、自分のことを何だと思っているんですか?」










「っ!」



 白い髪に赤い目をした苦しそうな敬助さんが抱きつく私の手を外した。




 ……自分のことを、なんだと……?



 ……あなたの恋人になれたんだと思ってたけど、それはやっぱり私の自惚れでしたか?









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