乙女ゲーム夢

□ずっとずっと・後
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「……千景、様?」
「様はいりませんよ、名無しさん様」
 私たちのやり取りに、鬼の頭領は不機嫌そうに顔をしかめてみせた。









 九寿が薩摩藩への手助けをするというから私もついてきた。……足手まといにならないようにとの約束付きで。



「……名無しさん」


「なに、千景?」


 彼は人間が嫌いだそうだ。



 低俗で、愚かで、脆く、儚い。

 群れを作るしか能のない存在だといつもそう言っている。



 でも私のことはなぜか気に入ってくれたみたいで……よく遊んでくれる。






「来い」






 すっと片手をのばされて、私は仕方ないなぁと思いながら立ちあがった。でも。





「いけません」




 間に九寿が立ちふさがった。





「……なんの真似だ、天霧」


 低くつぶやく千景に、九寿も負けず劣らず不機嫌そうな声で返した。





「風間、あなたにはなんどもいったはずです。名無しさん様は我らが姫。容易に近付くことのないようにと」


 ……姫。やっぱりあなたは私自身を見てくれることはない。





「……は、貴様がどう言おうと関係ない。俺がそいつと遊んでやると言っているんだ」





「……」




 ぐ、と九寿の眉間にしわが寄る。


 ……ここに来てから九寿の機嫌がよくない。やっぱり私がついてきたのがいやだったんだろうな。



 そう思ったらかなしくて俯いてしまった。







「……お、なにやってんだよ? 三人して」





 匡が部屋に入ってきた。顔をしかめて足を止める。


「なんだよ、お前ら。険悪な雰囲気出して」


「匡」



「お、いいところにいた。ほれ、土産だ」



「え?」




 私の両手の上にちょこんと乗せられた薄い桃色の包みに私はまじまじと匡の顔を見つめた。……たしか彼には嫌われていると思ってたんだけど。





「これ……私のために?」





「……嫌いだとか言っても知らねぇぞ」



「ううん! 好き!」



 金平糖……! お土産自体も嬉しかった。でも、それ以上に私のために勝ってきてくれた匡の心がうれしくて、私はにっこりと笑った。



「ありがとう、匡!」



「……おう」



 すこし顔を赤くして照れくさそうにそっぽを向く匡。


 ……見た目は怖いけどこんなにやさしい。



「……」










「……天霧、そもそもそいつは名無しの家が俺との縁談をまとめるためにここに寄こしたのだろう。だったら、俺がそいつをどうしようとお前の知ることではあるまい……」



「!」



 ウソ……? ウソ、だよね?



 私がここに来るのを九寿も父様も止めなかった……それはこんな理由があったから?





「っ、九寿……?」


「……」



 九寿はうつむいてぐっとこぶしを握りこんでいた。……きっと関節が白くなるほど握りしめているんだろう。





「人間の娘などだれが……と思っていたのだが……そいつのことは嫌いじゃない。……縁談をまとめるのも、前向きに検討しようか」





「え……」





 私が、千景の奥さんに?






 それは……とてつもなく現実味の薄い言葉だった。



「っ」


「きゃ!」



 とつぜん九寿が私の腕を引いて、部屋を飛び出した。






「九寿っ?」


 問いかけても答えてくれない……。















「……なんだったんだぁ?天霧のやつ……」


「……厄介なやつだ……けしかけなければ一向に進めんとはな」


「はぁ?」




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