乙女ゲーム夢

□ずっとずっと・前
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「……」


 うっすらと目をあけて、自分がどんな状況かを、鈍い頭で考える。


 すると隣から静かな声が聞こえてきた。






「……起きたんですか」





「きゅ、じゅ……?」


 大きな手が私の額を確かめるようにして上から覆った。




 すこしひんやりとした手なのに、どうしようもなくあたたかく感じられて気持ちいい。
 すりよるようにしたら九寿は目じりをさげて笑ってくれた。





「大分よくなったようですね」



 そっか……私、風邪をひいていたんだ。








 ……鬼の一族の住む地。

 でも私は鬼じゃない。

 彼らが憎み嫌う愚かな人間の娘だった。

 でも私は姫として丁重に扱われていた。

 九寿たちの一族が、その昔大恩を受けた血筋の末裔として。

 それを有難いと思う。
 
 その反面それがわずらわしくて仕方がなくなる時があった。









 ……九寿は私が姫だから、側にいてくれる。ただそれだけが理由だから。









「ずっと……ついててくれた、の?」


「ええ。苦しそうでしたから」


「……ありがと」


 布団の下から微笑みかけると九寿も微笑み返してくれる。



 うれしい。



「お腹がすいてはいませんか? なにか持ってきましょう」

「ん……いい。ここにいて」



 自分のことが疎ましいのに、こういうわがままがいえるのはそのおかげなんだと思うとなんだか複雑。



「ですがなにか食べなくてはよくなりませんよ?」


「んー、だって……」



 だって、離れてほしくないんだもん。










「……さみしいんですか?」










「っ」






「図星、ですね」




 くすりと笑われて頬が熱くなった。

 子供みたいで、はずかしい……!

 でも風邪を引くとどうにも心細く
なる。……九寿がどこかに行ってこのまま帰ってこなくなるんじゃないか、とか。埒もないことを考えてしまう。






「……わかりました。ここにいましょう」







 ……九寿はやさしい。


 私のわがままはたいてい聞いてくれる。


 でもそれが私自身のためではないのだと思うと、やっぱり切なかった。




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