乙女ゲーム夢
□あなたの隣
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「あ、こらカナン!」
手綱をひっぱってカナンが走り出した。
は、はやいはやい!
危ないってば!
「もう!」
怒ってカナンを見ると、カナンはすこししっぽと耳を下げて私の顔色をうかがった。
う、かわいいんだけどね?
でもとつぜん走り出されたら私までうっかり転んじゃう!
「って、わぁっ!」
黒いラブラトールレトリバーがこっちに向かって走ってきた!
「ちょ、ストップストップ!」
って言っても止まってくれるわけないよね!?
「カナン、行こう……っ」
オス犬かな?
こわいよぅっ!
カナンはメス犬だから仕方ないかもしれないけど……でもこわい!
「きゃあ! カナン!」
「こら、デューイ!」
「え?」
飼い主さん?
男の人があわててこっちに走り寄ってきた。
「わん!」
「このっ! ダメだって言っただろう?」
め、と言わんばかりにその子、デューイ、くん?をしかりつけるその姿はひげをはやした大人の男性で、でもその子をすごくかわいがってるんだなあって伝わってきた。
めずらしい? 男の人なのに……。
「すみません、大丈夫でしたか?」
「え?」
「こわがらせちゃったみたいで……君もごめんね」
その人はカナンにまで謝ってくれた。
「い、いえ、大丈夫です」
「そう? なら、よかった」
うわぁ……。
なんだか笑顔に花がある。なんていうんだろう? どことなく艶っぽいというか。
顔が赤くなるのをすこしうつむいてごまかした。
「……もしかして、どこかケガでもしました?」
「え? あ、いえ! どこもなんともないです!」
うつむいてしまったために心配かけちゃったみたい!
あわてて手と首を振った。
「そう? ならよかった」
「……」
この人の笑顔、なんだかほっとするな。
「あ、カナン」
「すみません。散歩の邪魔しちゃいましたね」
「そんな、大丈夫です」
でもカナンはさきに行きたいみたいでぐいぐいひもをひっぱってる。
「では。本当に、すみませんでした」
「いいえ! じゃあ……」
軽く頭を下げてカナンといっしょに歩きだす。
ふわぁ……それにしてもすごくかっこよかった……。
また会えたらいいな……。
それが、はじめてあの人と会った時。
(やさしい人だなと思った)
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